「第6回 東京アニメアワード フィルムフェスティバル」レポート

(2007.8.26付けでmixiの日記に書いたものを2007.9.17に修正したものです)
再修正(2007.10.17)
微調整(2007.11.23)
動画リンク先修正(2007.12.13)

 昨日は、秋葉原はUDX 4Fにて行われた「第6回 東京アニメアワード フィルムフェスティバル」に出かけてきた。それというのも、その一環として、同所の映写室にて『時をかける少女』の無料上映と細田監督らによるトーク ショーが行われると聞いたからである。すっかり出遅れた自分にとっては、映画のスクリーンで『時かけ』を見られるのはこれが最初で最後だろうとの思いと、 すっかりファンになってしまった細田監督が生で見られる…という魅力とに引っ張られ、猛暑の折、最近出不精ではあったが出かけることにした次第である。
 さてこのイベントは、「東京国際アニメフェア 2007」のイベントの一つで、『時をかける少女』が「アニメーション・オブ・ザ・イヤー」など多数の賞を獲得した「第6回 東京アニメアワード」の関連イベントとして行われたもので(つまり東京国際アニメフェアから見ると孫イベント(そんな言葉があるか知らないが)となる)、そのアニメアワードでの受賞作を映写室ですべて無料上映するというものである。
  この映写室、名を「アキバ3D(スリーディー)シアター」というそうだが、UDXの片隅にひっそりとある映写室で、機材は最新鋭ながら、 席が170席程度しかない。なにしろ無料だし、公開から1年経ったとはいえTV放映があったのはつい最近だし、細田監督のトークショーもあるしで、かなりの激戦となることが見込まれるので、相当気合いを入れて掛からずばなるまいと考えた。そこで上映開始2時間前の10:45からと発表されていた整理券配布のさらに2時間前、8:45を目標に秋葉原へ出発。

 秋葉原に着いたのは8:50頃で、大体予定通り。早速UDXに直行すると、まだ時間が早いようで停止されていた2Fから4Fへの直通エスカレータの前に行列が出来ていた。大体20人くらいだろうか。列の人に聞いてみると4Fへ上るための行列だとの由。また、エスカレータは掲示によると9時頃から動くらし い。
 2時間前を目標に決めたものの、それであれば整理券が貰えるということの根拠は何もなかったから、これでひとまず安心し、まだ食べていなかった朝食をとりに近くの喫茶店へ。手早くトイレと食事を済ませて10分前後で列に戻ると、人数は10人ばかり増えていた。列につくと同時くらいにエスカレータが動き始め、人々は続々と4Fへ。
 UDXというところにはまだあまり個人的に馴染みがなく、4Fにある「東京アニメセンター」(「アキバ3Dシアター」もこの一部を成してい る)も、東京都の肝いりでここにできたようなことを聞いていただけで、実際に行ってみるのは初めてである。掲示されていた案内図を見てみたところ、要するに手前側に物販のショップや展示スペースなどがあり、奥の方に「アキバ3Dシアター」こと映写室があるらしい。
 それを確かめてから進んでいくと、人々はほとんどショップの方に並んでいる。整理券はショップの方で配るのかしら…と思いつつも奥の映写室の方へ進んでいくと、映写室の入口付近に職員らしき人たちを発見。確かめるとここの廊下のところで並んでくれとのことで、早速並んだが、順番は先頭に近かった。
 どうもその後の感触では、ショップ側にもショップの開店を待つ行列があったようなのではあるが、整理券を求める人たちの一部も間違ってそちらに並んでいたようだ。
 さて、整理券の配布開始までまだ2時間近くもある計算である。落ち着いて行列を観察してみると、列の先頭付近から見える前の方に関する限り、年代は大学生ないし20代くらいが一番多く、男女比は半々。個人的には女性が意外に多いなという感じを受けたのだが、いくつか小耳に挟んだ彼女らの話からはやはりTV放映の影響が伺えた。
 『時かけ』が女性に受ける映画なのかどうかというのは興味あるところで、それは今後細田アニメ、あるいはアニメ一般が「ふつうの大人」に広く見られるようになっていくためには、広い層にアピールできる作品になっていることが重要だからである。 そしてもちろん、私としてはそうなって欲しいと思っているのである。
 単純に考えると、主人公の真琴の魅力で押していく映画だから男性向け…という結論に至りそうなのだが、この作品では千昭といういかにも女性に好かれそうな準主人公がいるために分析は一筋縄ではいかない。そもそも真琴の性格は同性受けするのかという論点もある。
 ネット上の様々なユーザーレビューでは女性が書いたと思しきものも多々あって、それらにおいてはやはり高評価が付いていることが多いのであるが、しかし少ないながらも低評価のものもあったし、そもそもこういったものは言いたいことがある人しか書き込まないので、全体的な傾向を知るにはあまり役立たないのである。

 それはさておき。整理券の配布予定時刻は10:45だったわけだが、列が大分伸びたからか、1時間も待たないうちに整理券の配布が始まる。
 『時かけ』の上映は昼からだが、午前中には韓国アニメの招待作品の上映がある。正直言って韓国アニメには興味がなかったが、主催者側に危機感があったのか、『時かけ』の整理券と同時に韓国アニメの整理券も強制配布(?)される。
  何しろここで上映される3本の韓国アニメの中には日本語の字幕も吹き替えもない作品すらあるとのことで、どうしようかと迷うところである。
  なんにせよ整理券は確保したので、列を離れて少し久しぶりに秋葉原を散策する。LaOXのザ・コン館が閉店セールをやっていたことと、ケバブの店が増えていたのが目に付いた。また、チチブデンキの自販機も絶好調なようであるが、普通のPCショップでもむやみとその類のものを売るようになったようだ。まあ缶詰であるから保健所の許可もいらず、腐りもせず売りやすいのであろう。

 そんな風にして秋葉原を回ったものの、特に買うものがあるでもなくすぐに時間を持て余し気味になる。ま、つまらなければ寝ていればいいか。というわけで、UDXに戻り韓国アニメを見てみることにする。
 上映されるのはおそらくいずれもTVアニメシリーズの『漢字王朱豪』・『アニ・フランチェスカ(日本語字幕スーパー版)』・『少女チャングムの 夢(日本語版)』の3本。『アニ・フランチェスカ』のみ1話15分弱のものが2話分、その他は1話30分弱のものが1話分上映。いずれも韓国ドラマがベー スになっているアニメで、この選択は幾らかでも韓流ドラマのネームバリューを活かして観客を呼び込もうという一つの戦略であったのかも知れない。
  しかしながら映写室に入ってみると、上映開始時点でも観客は20人いるかどうかといったところ。かなり寂しい状況である。
  さて、一本目の『漢字王朱豪』は、その名の通り漢字学習のための子供向け教育アニメ。これが恐怖の「日本語字幕・吹き替え無し」だったのだが、 いざ見始めてみると画面に英語字幕が出ていて問題はなかった。
  内容の方だが、フルCGアニメであることが目を引く。日本でも最近は若干あるそうだが、きちんと見るのは個人的には初めて。キャラクターの外見はいわゆる普通のアニメのそれと全然違うが、意外に違和感はない。ストーリーは単純ながらもコミカルでなかなか楽しめる。これなら子供たちは喜んで見るのでは なかろうか。
  一方二本目の『アニ・フランチェスカ』はかなりディープな作品で、絵はなかなかいい感じなのだが、ストーリー展開に若干ついて行けないところがある。『アンニョン フランチェスカ』というドラマがベースになっているそうなのだが、そのドラマを知らないこともあろう。
  三本目の『少女チャングムの夢』は、既に昨年NHKで放映されたシリーズものアニメ(上映はそのうちの第一話)で、これは日本人にとっても何の問題もない立派な子供向けTVアニメ。10月からまたNHKで放送するそうだ。
  見終わって退席するときには観客は少し増えていたようだが、それでも多いとはいえない人数。出口のところで関係者と思しき人が韓国のCDを配っていたが、人が少なくて申し訳ない感じ。
  実際に見てみて、結構韓国アニメもやるじゃない、と思ったけれど、やはり日本では人気はないんだということも実感した。

 さてこれが終わるとお待ちかね、『時をかける少女』分の観客の入場である。こちらはさすがに人気で場内はほぼ満員。ただ、若干空席もあり完全に満員ではないのが意外ではある。整理券は最後まで捌けなかったのだろうか? それとも貰ったはいいものの来られなくなった人がいたのか?
  客の入場が済むとまず、2008年度の東京国際アニメフェアのイメージキャラクターの発表会見兼デザイナーの表彰式が始まる。今回のキャラクターは東京タワーと「A」の文字をモチーフにしたもので、これまでのキャラクターと比べるとラフな感じの線で描かれている(そのうちにリンク切れするものと思われるが、現時点ではこちらでそのキャラクターが見られる)。

 式典は10分ほどで終わり、小休止に続いていよいよ『時をかける少女』の上映が始まる。
 デジタル時刻の数列とともに『夏空』が流れるしょっぱなのシーンに早速興奮。オープニングのスタッフロールに感激。後ろから声が聞こえるのに吃驚。絵の隅々がよく見えるのに嘆息。携帯のバイブレータの音がとてもよく聞こえるのに感心。
 とまあ、DVDで見るのとはひと味違う劇場体験に大満足であった。実は最近では手軽にストーリーを確認できる絵コンテばかり見ていたのだけれども、やっぱりそれじゃあダメだ、と再確認した(当たり前)。特に、真琴そのものの仲里依紗の声が聞こえないというのもあるけれど、やっぱり音楽。奥華子の『変わらない もの』ももちろんいいのだけれども、なにより吉田潔(音楽担当)のあの切ない『夏空』が聞こえないのではこの作品の雰囲気が出ない(オープニングとラスト シーンの曲ね)。

 さて、つつがなく上映が終了すると、小休止を挟んで細田監督と渡邊プロデューサーによるトークショーが始まる。司会は文化放送でアニメ番組のパーソナリティーを務める鷲崎氏。
 監督の話の内容は覚えている限りでは次のようであった。

 わずか40分ほどのトークショーはあっという間であったが、生で細田監督のお話を聞けたのは大変貴重な体験であった。
 なお、観客の中に録音機のようなものを持っている人を見かけたので、そのうち余所のブログ等にも詳細が載るのではなかろうか(第2日本テレビに一部動画あり。ブログは現時点で発見できず。ご存じでしたらお知らせください)。

 ここで一旦UDXを後にして食事へ。この後は公募部門受賞作の上映があり、そちらに興味もあったのだが、なにしろ上映スケジュールに隙間がなく、なにかを諦めないと食事もできない。食事に出ると午前中とは違って秋葉原の街はさすがに混んでいる。

 簡単に済ませてUDXに戻った後、今度は『パプリカ』の上映の列に並ぶ。
 こちらの整理券もかなり若い番号のものを確保してあったが、いざ入場してみると満員ではなかったようである。
  『パプリカ』はこれも筒井康隆原作のアニメで(あの人はどれだけ稼いでいるんだ)、原作の方は既に読んでいるがなかなか面白い小説である。はたしてこれがどうアニメ化されたのか。こちらもマッドハウス制作と聞き興味を持っていた。
 さて、いざ見てみてると、これが非常に『時かけ』と対照的で興味深い。
 演出面で見ると、『パプリカ』は、これはもうスタイリッシュな系統の今までの「劇場アニメーション」の延長線上のもので、まあ無難といえば無難かもしれないけれど、声優は林原めぐみというまさにコンベンショナルな声優だし、セリフ(脚本)は不自然だし、どうもキャラクターに共感できなくて感動がないなあという感じで、率直に言って演出面では特別に秀でたところはない。またストーリーは、長編小説である原作と比較すると、物語を大幅に切りつめて作ったという感じになっていて、短編の原作小説を膨らませて作った『時かけ』と対照的である。
 一方、絵のうまさというか、技術的な面ではかなり凄くて、オープニング一つとっても格好がいいし、狂気の行列のシーンにも圧倒される。中盤あたりの廃屋のシーンの雰囲気なども素晴らしい。作画にブレもなく、『時かけ』で、真琴の顔があちこちで微妙に変わっていたりしたのと対照的である(もっとも、『時かけ』では、作画担当者の個性を尊重するというポリシーがあったようで、実際にもこのおかげで真琴の表情がいっそう豊かになったと見られる一面も あるので、品質とか技術の問題というべきではないかも知れない)。
 まあ、そもそもの狙いとして、おそらく『パプリカ』は格好いい映画であって感動する映画ではないのだから、直接比較しても仕方ないというのはある。なお、後で聞いた話では、どちらかというとマッドハウスという制作会社の持ち味はむしろスタイリッシュな作品の方にあるらしい。
 ちなみに『パプリカ』はデジタル上映だったようで微妙に特有の色にじみが見られた。一方『時かけ』は正真正銘のフィルム上映のようだったが、若干キズやゴミなどの痛みが見られた。全国の上映で大分酷使されたと見られる。このあたりの対比もなかなか面白い。

 『パプリカ』の上映もつつがなく終了。この後にも公募作品の上映があるのだが、朝の9時から居るのでそろそろ帰宅させて貰うことにする。

 帰宅後、午後9時から、『時かけ』の脚本家奥寺佐渡子女史が脚本、同じく美術監督の山本二三氏が監督の『ミヨリの森』を見る。
 9時から11時すぎまでの放送を丸々見たが、5点満点中2.5点くらいの出来。出だしは良かったのだが、中盤からの展開は安易に流れた感があった。音楽も今一つ。

 さて、この日は1日に6本、のべ5時間以上もアニメを見たわけで、こんなことは個人的に未だかつてないことである。まさにアニメ三昧の一日であった。
 それにつけてもこの一日でよくわかったことは、『時かけ』が奇跡的に良くできたアニメだということである。あんなアニメは本当に10年に1つもない。まあ、細田監督がバリバリ劇場アニメを作り出したらこの命題は崩れるかもしれないが、なんにせよまだ見ていない人には是非見てもらいたいアニメである…とのお決まりのお勧めを以てこの長い日記を終わることとしたい。

(追伸)
書き忘れたが、「東京アニメアワードフィルムフェスティバル」の運営について一言。どうも全体的に客が少なすぎる。映写室が小さすぎるので、本質的に大々的な広告宣伝活動はできないわけであるが、それにしてもちょっとPRが不足しているのではないか。