劇場版アニメーション『時をかける少女』(脚本: 奥寺佐渡子、監督: 細田守)のDパートのあらすじ。未鑑賞者・サーチエンジンお断り。(2008.3.12)
ここまでのあらすじは「細田版(アニメ版)『時をかける少女』のあらすじ」を参照。
クライマックスと結末の短いあらすじはありません。
(大体Dパートに対応していますが、正確に言うと3つめの形式段落からになります。)
坂の途中で転倒し傷だらけになる真琴。からくり人形が鐘を打つのが聞こえる。
だがふと顔を上げると、奇妙なことに真琴は踏切の前にいた。そればかりではない。人も電車も、周りの風景はすべて動きが止まっている。なにより、自転車も功介も果穂も見あたらない。「ど…どうなってるの?」驚く真琴。すると後ろから声がする。「やっぱり真琴か」。振り返るとそこにいたのは千昭だった。千昭は真琴の自転車を押している。ふと見ると、からくり時計の針は午後3時30分頃を指していた。真琴が「功介は?」と訊くと、千昭は「まだウチだろ」と答える。ということは、どういうわけか千昭が過去にタイムリープし、時間を止めて、功介の自宅の病院から真琴の自転車を持ってきたのだろうか。「これ、千昭がやったの? 跳べるの? 千昭も」と真琴が訊くと、千昭は「オレ、未来から来たって言ったら、笑う?」と言う。
時の静止した世界を二人きりで歩きながら、千昭は説明する。千昭の住む未来では、体にチャージすると自由に時間を行き来できる装置が開発されている。千昭はそれを使ってこの時代にやって来たが、その後どこかに紛失してしまった。それがあのクルミだったのだ。千昭は四方探し回り、ようやく実験室で見つけたが、もう使用済みだったと言う。どうしてこの時代にやってきたのかと真琴が訊くと、千昭はどうしても見たい絵があったからだと答える。それは和子の修復していたあの絵だ。二人は博物館にやってくる。絵は、千昭の時代には焼失してしまい、所在がはっきりしているのは、この時代の、この場所の、この季節だけだった。しかしその絵の展示位置には修復中を知らせる張り紙があるのみ。千昭は、だがもう何もかも意味がないという。どういうことかと真琴が問い質すと、千昭は、タイムリープ回数を使い果たし、未来に帰れなくなったのだと言う。千昭が持っていたタイムリープの残りは1回だけ、それをさっきのタイムリープで使ってしまったのだ。「どうして使っちゃうのよ!! 使いどきってもんがあるでしょっ!!」真琴は責めるが、千昭の答えに絶句してしまう。「使いどきだったんだよ。今のお前は知らないだろうが、功介とあの彼女、1回はあの踏切で死んじまったんだぜ? 誰かさんは責任感じて泣きわめくし、こうするしかなかったんだ」。さらに千昭は諦めたように言う。「帰らなきゃいけなかったのに、いつの間にか夏になった。おまえらと一緒にいるのが、あんまり楽しくてさ…」。
二人はやがて時の止まった街の雑踏の中にやってくる。気を取り直して真琴が言う。もう少ししたらあの絵の修復が終わる。そうしたら3人で一緒に見に行こう。だが千昭はそれは無理だと言う。未来には、現代人にタイムリープの存在を知られてはならないというルールがあり、千昭はそれを犯した。だから千昭はこの世界から姿を消さなければならない。真琴はそれを聞き愕然とする。必死に引き留めようとする真琴だったが、千昭は、手を挙げて別れの合図をすると、人混みの向こうに消えていく。と同時に時の流れが戻り、周囲の人々が動き出す。真琴はその人の流れの間を走り必死に追いつこうとしたが、千昭の姿はもはやどこにも見つからなかった。
翌日。学校は千昭が自主退学したという話題で持ちきりだった。千昭はヤクザに借金があって追いかけられていたのだという者、年上の女を孕ませ結婚したのだという者。そんな無責任な噂に耐えきれず真琴と功介は教室を飛び出す。中庭に座る二人。功介は言う。「どうなってんだよ。…オレはともかく、真琴にもひとこともなしかよ。…あいつ、真琴のこと好きだったくせに」。すると真琴は言う。「…最低だ、あたし。人が大事なこと話してるのに、それをなかったことにしちゃったの…なんで、ちゃんと聞いてあげなかったのかなぁ…?」。そして号泣する真琴。
放課後、真琴は和子のところへ行く。和子は言う。「私ね、ホントは真琴は、功介くんとも、千昭くんとも、どちらとも友達のままだと思ってた。どっちともつきあわないうちに卒業して、いつか全然別な人とつきあうんだろうなって」。「私もそう思ってた」。「でも、そうじゃないのね」。さらに和子は言う。和子には高校生のときに好きになった人がいた。大人になる前に別れてしまったが、彼はいつか必ず戻ってくると言っていた。和子は、待つつもりはなかったが、もうこんなに時間が経ってしまった。「…長くはなかった。あっという間だった。…でも真琴、あなたは私みたいなタイプじゃないでしょ? 待ち合わせに遅れて来た人がいたら、走って迎えに行くのがあなたでしょ?」
その日の夜。真琴は自室のベッドの上で考え込む。私はどうしたらいいのだろう。と、そこに一匹のてんとう虫が飛んできて、真琴の左腕に止まる。真琴は何の気なしにそれを払う。だがそのとき、偶然左肘の「01」の数字が目に入る。真琴は驚いてベッドから転げ落ちる。きのう、真琴が踏切に駆けつけた午後3時30分頃まで千昭が時間を戻したので、真琴が千昭との電話の最中に使った分のタイムリープがなかったことになっていたのだ。とすれば、それは千昭も同じはず。つまり、真琴がこの1回を使って千昭の最後のタイムリープより前に時間を戻せば、千昭の1回が復活するはずだ。それに気づいた真琴は、家を飛び出してその前の急坂を駆け下り、最後の大跳躍をする。異次元空間を初めて前を向いて飛んでいく真琴。このタイムリープが上手くいっても、千昭は未来へ帰ってしまう。真琴の脳裏には、楽しかった三人の想い出が浮かんでは消える。そしてなかったことにしてしまった千昭の告白。やがてその記憶を噛み締めるように目をつぶると、真琴は放課後の実験室に着地した。
辿り着いたのは7月13日、転んでタイムリープ能力を得たあの瞬間だ。真琴は降ってきたノートに埋もれる。と、その下から使用済みのクルミが転がり出てくる。真琴がそれを拾うと、ドアが開いて友梨が入ってくる。「真琴、大丈夫?」 真琴は理科室に戻りノートを置く。友梨は真琴に千昭のことを訊いてくる。「千昭くんってさぁ、休みの日とか何してるのかなぁ」。黒板には「Time waits for no one.」の文字。それを見詰めていた真琴は、何かを決心すると友梨の方を向いて言う。「私さ、友梨に言えなかったことがある」。「…なに?」「わたし、千昭のこと、好きだ。…ごめん」。驚く友梨だが、やがて優しい表情で言う。「……そっか。そうだと思った。…さっき、ここ来る時、千昭くんとすれ違ったよ。行きな」。駆けていく真琴。一人残った友梨が呟く。「…真琴。Time waits for no one.」
校庭に出て来ると、功介に出会う。千昭は先にグラウンドに行ったという。このときはまだ功介と果穂はくっついていないが、果穂たち三人が遠巻きにこちらを伺っている。「あのさあ、あの子たちも野球誘わない?」と真琴が言うが、功介は事情が呑み込めない。真琴はさらに言う。「それとさあ、私の自転車使ったら5千円! いい!? 5千円だからね!」ますます訳がわからない功介。真琴は功介たちを残し校門へと駆けていくが、少し行ったところで振り返り、「あとさあ! 待っててくれてありがとう!」と言う。唖然としていた功介だが、やがて真琴を優しく見守る父親のように言う。「真琴! 前見て走れ!」
真琴は千昭の待つグラウンドに向け疾走する。グラウンドに着くと、千昭が待ちくたびれていた。使用済みのクルミを見せると、千昭は驚く。「どこにあった…? いや、おまえ、これが何だか分かってんのか」。「わかってるよ」。「誰に訊いた?」「千昭に。…全部話してくれたよ。千昭の住む時代のこととか、これが何かってこととか、全部」。真琴がそのクルミに少し力を加えると、それは簡単に砕け散る。真琴が千昭の手首にある数字を確かめると、そこには「01」とあった。安堵する真琴。真琴と千昭は最後の二人の時間を過ごす。もう踏切事故は起こらない。やがて夕方になり、二人はあの河原の土手に並んで座る。近くには石投げの子どもたち。口数も少ない二人だが、やがて真琴が言う。「あの絵、未来へ帰って見てね。もうなくなったり、燃えたりしない。千昭の時代にも、残ってるように…なんとかしてみる」。子どもたちが投げた石が、水面を跳ねていく。千昭が言う。「帰らなきゃいけなかったのに、いつの間にか夏になった。おまえらといるのが、あんまり楽しくてさ」。真琴はその言葉に不満そうだ。聞きたかった言葉はそれではない。と、突然石投げをしていたはずの子どもたちが二人に向かって囃し立てる。「カップルだ。ヒューヒュー熱いねー」。「うっせぇバカ!」千昭がそれを一喝すると、子どもたちは慌てて逃げていく。やがて立ち上がる二人。「功介によろしくな。…あとさ……真琴。ずっと、実は言おうと思ってたことがあるんだけどさ……」。真琴は期待と緊張の表情で千昭の顔を見詰めるが、千昭はこう続ける。「おまえさ…飛び出してケガとかすんなよ。注意力が足りねえんだから、行動する前にもっと考えろよな」。がっかりした真琴には次第に怒りがこみ上げてくる。「わかったよっ!!心配してくれてありがとう!だから早く行って!」そう言って真琴は千昭の背中をグイグイと押しやる。「何怒ってんだよ…じゃあな」。「じゃあなっ!!」真琴は怒りにまかせて叫び、踵を返して歩いていくが、やがて立ち止まってしまう。真琴はたまらず後ろを振り返るが、もはや千昭の姿はない。涙が溢れてくる。「なんでだろ?」わからないが涙は止まらない。真琴は諦めたように再び踵を返し、泣きながら歩いていく。と、まるで忘れものを取りに戻るように、後ろから千昭が早足で真琴の方に歩いてくる。千昭は後ろから手を真琴の肩に置き、そのまま真琴を千昭の顔の方に引き寄せて、耳元で言う。「未来で、待ってる」。呆然と、しかし泣き笑いの表情で真琴が応える。「うん…すぐ行く…走っていく…」。千昭の手が真琴の髪をくしゃくしゃと撫で、そして離れていく。気がつくと千昭の姿はどこにもなかった。
翌日の放課後。グラウンドで功介が打席に立っている。ピッチャーは真琴。功介は言う。「ったくどうなってんだよ。オレはともかく、真琴にもひとこともなしかよ。それがいきなり留学するから退学しますだと?ふざけんなって!」怒りに任せて真琴の球にバットを振る功介。打球は外野方向に飛ぶ。その辺りは今日から加わった果穂・盛子・析美の三人が守っているが、下手くそでまったく捕れない。真琴が言う。「やりたいことが決まったんだよ、きっと」。「…おまえ、なんか聞いてたのか?」「別に。何も」。果穂たちの様子を見てやれやれと言う功介に真琴が言う。「…私もさ、実はこれからやること決まったんだ」。「へー。何?」「ヒ・ミ・ツ」。その真琴の言葉に不満そうな功介。「はぁ?なんだよそれ」。「また今度ね」。そう言ってグラウンドの上の空に大きく成長した入道雲を見詰める真琴。やがて外野からボールが返ってくると、再び真琴は力強くボールを投げる。かつて千昭がいたバッターボックスに向かって。