Windows向けNitro The Best!シリーズ ダウンロード版でプレイ。
- 最近しきりに世間を騒がすnitro plus界隈。物語愛好家としてはなにか一つプレイしてみなければなるまいと思いつつもなかなか機会がなかったが、なぜか今になって衝動買い。3000円と安かったこともある。「アドベンチャーゲーム」に分類されるゲームを購入したのは、確かエルフソフトの『同級生』あたりが最後で、そうすると……なんと約20年ぶり!?
- あの堀井雄二のデビュー作『ポートピア殺人事件』を挙げるまでもなく、アドベンチャーゲームはPC黎明期にはゲームの花形だったが、その後次第にRPGなどの他ジャンルのゲームがストーリー性を強めるのにつれ押しだされるようにして衰退、上述の『同級生』あたりからほとんどもっぱらエロゲー・ギャルゲーの分野でのみひっそりと生き続けてきた……というのが個人的な理解。本作も発売元のnitro plusはギャルゲーメーカーであり、いちおうその系譜に属する。ただ、エロシーンはないし、キャラクターデザインもあまり「萌え萌え」していない。
- アドベンチャーゲームの世界では、チュンソフトの『弟切草』あたりから読み物としての性格を強めるトレンド(ノベールゲーム化)が確立したらしいと仄聞してはいたものの、実際プレイを初めてみてやはり驚いたのは、アドベンチャーゲームなのにまったく選択肢が示されないこと。結局一つも「選択」をなすことなく「不可逆のリブート」エンディング(いわゆる鈴羽ED、マルチエンディングのうちの一番手前の結末)まで進んでしまった。これはまさにアドベンチャーゲームというよりノベルゲームである。
- これで終わりではあるまいと思って攻略サイトを覗いたところ、主人公の持っている携帯電話に送られてくるメールに返信するかどうかでストーリーが分岐するシステムだったらしい。マニュアルが付属しないこともあって、受信は直観的にできるが送信方法がわかりにくい。
- 一番初めのエンディングにたどり着くまでに要したプレイ時間は9時間弱。普段親しんでいる映画やドラマと比べると、長編映画よりははるかに長く、ドラマだとここまでで1クール11話くらいの長さとなる。トゥルーエンド到達・100%達成までは、攻略サイトを見ながらで約24時間を要した。特に後者は新しいストーリー分岐に達するまでの「作業」に時間を要し、正直オジさんにはちょっとしんどい感もあった。ただ、尺が長い分、話の前提となる設定や人間関係の描写に時間が掛けてあるのが悲劇の効果を高めていて、そこのところは非常に丁寧でリッチな感触を受けた。逆に言えば、映画やドラマに見られるような、内容にかかわらず枠に合わせなければならないという制約は、想像以上に話を貧しくするのだなあと思う。
- とはいうものの、ギャルゲーというフォーマットに拘ったことによる別の意味での若干の制約も感じないではなかった。それはつまりマルチエンディングシステムに由来するものであって、まずフェイリスとルカ子のエンディングに至るルートは、それなりの良さは認めるものの、この話の本質にかかわるとは思えず、やはり不要であったと思う。そもそもエロゲーにおいては 女性人物を落とす=エロシーン→ステディな恋人同士に という基本構造が外せないためにマルチエンディングのフォーマットを厳守せざるを得ないわけであり、ギャルゲーである本作もそれを踏襲したものと思われるが、この作品の場合不要なルールである。したがってむやみに女性の数を増やす必要はない。またさらにいうなら、本当は紅莉栖
とまゆりのエンディングも、トゥルーエンドに組み込まれているのだから、なくてもよかった。鈴羽のエンディングだけは独自の価値があるので捨てがたい。 - 追記: 改めて考えてみると、悲劇としてはまゆりEDの方が「真のエンディング」なのかもしれない。アリストテレスいうところの「実行した場合」(『詩学』1454a)である。
- シナリオについては後日更新。以下は取り急ぎ。
- とにかく非常によく書けたアリストテレス的悲劇(メロドラマ的でもあるが…)である(劇中のセリフに一度だけ「アリストテレス」(ついでに「ホラーティウス」も)という言葉が出てくるが偶然ではあるまい)。葛藤・ミステリーの力で観客をひきつける力が強い。エートス(キャラクター)はラノベのパターン通りではあったが、上述のように描写に丁寧に時間を掛けているのであまり不自然に感じない。
- ストーリーのネタ元についてだが、既に各所で指摘されているように、これはあきらかに「時をかける少女」である。本作の初版であるX-box 360版 の公表年が2009年、劇中でカギとなる日が13日、またタイムリープという用語も出て来ているが、なんといっても話のテーマが細田版そのまんまであり、いくら筆者が「何を観ても時をかける少女に見える病」という不治の病にかかっているとはいっても、これは無関係とは言えまい。またそのほか、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』トリロジーや『バタフライエフェクト』など、タイムトラベルものSF映画のアイデアもごった煮にしたようなプロットである。
- トゥルーエンドの真のスタッフロールの後のエピローグは基本的に蛇足であるように思われた。(ネタバレを防ぐために曖昧な言い方になるが)『バタフライエフェクト』のラストに相当するシーンをワンカット程度含めてあれば十分だった。
88点/100点満点