筆者が自宅で使用しているISPはOCNである。昔このサーバーを固定IPアドレスで自宅に置いていたときは別のISPを利用していたが、お名前サーバーに引っ越した時に切り替えた。
OCNの最大のウリは、ネットワークエンジニア憧れの(?)tier 1ネットワークだという点だろう。OCN曰くアジア唯一だそうである。tier 1ということは、どこからもトランジットを買う必要がないということだから、その他のISPのように上流とのトランジットの費用をケチってボトルネックを作る心配がない。
ただ考えてみると、このことにどの程度の価値があるかには微妙なところがある。
まず国内での通信についてみると、大抵のISPはIXに繋ぎこんでピアリングしているはずなので、よほど零細のISPやDCとのトラフィックでない限り、トランジット回線は経由しないはずである。
一方、海を跨いだ国際通信については、KDDIなど余程の大手以外はトランジットか、外注のリモートピアリングに頼るしかないはずなので、自前でケーブルを持っているtier 1たるNTTが有利なはずである。
……がしかし、実は、海を跨いだ通信というのは想像以上に少ないのである。Google、YouTube、Twitter、Amazonといった著名外資系サイトはもちろん、直接にはあまり日本を意識していなさそうなサイトでも、大手のサイトであれば大抵、CDNを利用しているため、海外サイトに繋いでいるようで実際の接続先は国内ということが多い。
例えば、筆者の自宅からYouTube.comへの経路は次のようである(tracertの6ホップ目以降。以下同じ)。
6 6 ms 5 ms 5 ms 2001:380:0:25e8::2
7 6 ms 6 ms 6 ms 2001:4860:0:1000::1
8 6 ms 6 ms 6 ms 2001:4860:0:1::199f
9 7 ms 7 ms 7 ms nrt12s02-in-x0e.1e100.net [2404:6800:4004:801::200e]
6ホップ目からなのでこれだとわからないのだが、5ホップ目までNTT外のアドレスは(宅内のルータを除いて)なく、 2400:4000::/22のNTT Communicationsのアドレスを持ったルータを経由している。以下の例でも同様。
2001:380::/32と2001:218::/32はNTTで、2001:4860::/32と2404:6800::/32はGoogleである。nrt12とあるのは、おそらく多摩市唐木田にあるKDDIのデータセンターで、そうだとするとどうやらパケットは東京都から外に出ていない。
cnn.comへの経路は次の通り。
6 5 ms 5 ms 5 ms 2001:380:a110:5::1
7 6 ms 5 ms 6 ms ae-6.r03.tokyjp05.jp.bb.gin.ntt.net [2001:218:2000:5000::841]
8 5 ms 19 ms 23 ms ae-4.r30.tokyjp05.jp.bb.gin.ntt.net [2001:218:0:2000::11a]
9 6 ms 6 ms 6 ms ae-2.r01.tokyjp08.jp.bb.gin.ntt.net [2001:218:0:2000::2db]
10 6 ms 6 ms 6 ms 2001:218:2000:5000::40a
11 6 ms 6 ms 6 ms 2a04:4e42:1a::323
2a04:4e42:1a::323はcnn.comである。直接所在地を示すホスト名などは表示されていないが、NTTの東京にあるルータと一つ隔てているのみで、RTTもほとんど変わらないことから、国内(おそらく都内)のサーバーに接続しているものとみられる。
www.whitehouse.gov。
6 5 ms 5 ms 5 ms 2001:380:a110:5::1
7 5 ms 5 ms 5 ms 2001:380:a110:6::2
8 5 ms 5 ms 6 ms 2001:380:0:21cc::2
9 5 ms 6 ms 5 ms g2600-140b-8800-018d-0000-0000-0000-0fc4.deploy.static.akamaitechnologies.com [2600:140b:8800:18d::fc4]
アメリカを代表するこのサイトもAkamaiの国内(おそらく都内)サーバーにつながる。
Google Mapsでアメリカを表示させて適当に見つけたWebサイト(ソルトレーク市のコンベンションセンター)への経路。
6 10 ms 20 ms 16 ms ae-3.r31.tokyjp05.jp.bb.gin.ntt.net [129.250.3.29]
7 8 ms 8 ms 8 ms ae-3.r01.tokyjp08.jp.bb.gin.ntt.net [129.250.6.133]
8 11 ms 7 ms 8 ms ae-0.edgecast-networks.tokyjp08.jp.bb.gin.ntt.net [61.213.160.214]
9 10 ms 8 ms 8 ms ae-66.core1.tkb.edgecastcdn.net [152.195.113.131]
10 7 ms 7 ms 7 ms 152.195.37.65
こんなところまで国内にミラーがある。CDNを利用しているためである。GeoLocationだとアメリカと出るが、そうならこんなRTTのわけはない。
アメリカは望み薄なのでヨーロッパで、ドイツのミュンヘン中央駅Webサイト(ドイツ国鉄)のサーバーへの経路。
6 10 ms 7 ms 7 ms ae-3.r31.tokyjp05.jp.bb.gin.ntt.net [129.250.3.29]
7 127 ms 123 ms * ae-4.r23.lsanca07.us.bb.gin.ntt.net [129.250.3.193]
8 121 ms 118 ms 118 ms ae-2.r00.lsanca07.us.bb.gin.ntt.net [129.250.3.238]
9 111 ms * 110 ms be3025.ccr41.lax04.atlas.cogentco.com [154.54.9.29]
10 124 ms 123 ms 123 ms be3271.ccr41.lax01.atlas.cogentco.com [154.54.42.101]
11 134 ms * 131 ms be2931.ccr31.phx01.atlas.cogentco.com [154.54.44.85]
12 145 ms 143 ms 143 ms be2929.ccr21.elp01.atlas.cogentco.com [154.54.42.66]
13 * 158 ms 158 ms be2927.ccr41.iah01.atlas.cogentco.com [154.54.29.221]
14 172 ms * 170 ms be2687.ccr41.atl01.atlas.cogentco.com [154.54.28.69]
15 185 ms 182 ms * be2112.ccr41.dca01.atlas.cogentco.com [154.54.7.157]
16 169 ms 167 ms * be2806.ccr41.jfk02.atlas.cogentco.com [154.54.40.105]
17 253 ms * 251 ms be2317.ccr41.lon13.atlas.cogentco.com [154.54.30.186]
18 263 ms * 262 ms be12194.ccr41.ams03.atlas.cogentco.com [154.54.56.94]
19 277 ms * 276 ms be2815.ccr41.ham01.atlas.cogentco.com [154.54.38.206]
20 278 ms * 275 ms 149.6.142.74
21 262 ms * 261 ms 62.214.38.53
22 262 ms * 261 ms 213.182.150.202
23 * * * 要求がタイムアウトしました。
24 * * * 要求がタイムアウトしました。
25 * * * 要求がタイムアウトしました。
26 * * * 要求がタイムアウトしました。
27 * * * 要求がタイムアウトしました。
28 251 ms * 251 ms 81.200.196.44
やっとそれらしい経路になった。ロスのIXでピアリング先のCogentのネットワークに入り、アメリカ大陸を横断したあと、大西洋を渡っているようだ。Cogentはヨーロッパのtier 1。サーバーがCogent配下のネットワークに置いてあるのだろう。ちなみに、NTTは東京からあっさり太平洋を渡っているのに対し、Cogentは細かく刻んでいてホップ数が多いのが興味深い。
ここでも、カットしてあって申し訳ないのだが、5ホップ目までの間もNTTの外に出ていない。tier 1でないISPだと、そのISPのルータがtier 1(ここでいうNTT)のルータの手前に入り、そことtier 1との間がボトルネックになることがある。そういう心配がないのがtier 1のメリットということになる。
しかしとにかく、海外サーバーにつながるサイトというのは、探しだすのが大変なほどに少ない。
OCNは、アクセス回線にフレッツ網を利用するISPの中では、シェアがトップだそうだが、料金で云うとやや高い方である。価格コムの価格表によると、最安のプロバイダと比較して月額費用が700円ほど高い。それに見合うだけの価値があるか、ここまでの実験結果を見ると微妙である。昔は、ここまでCDNだらけではなかったのだが……。
ただ、アメリカ以外の海外については、大手サイト以外にはまだそれほどCDNが普及していないようなので、接続先次第ではある。また、海外とWeb会議したいといった用途では、CDNは無力である。
なお、ここまで区別していなかったが、厳密に云うと、tier 1なのはNTT communicationsというよりはNTT Ltd(NTTグループ)である。そういう意味では、ぷららでも同じなのかも。