WOWOWにて鑑賞。
- 100人乗りの旅客機のある機長が、悪天候と機材のトラブルで墜落の危機に見舞われるが、奇跡的な操縦で不時着に成功、死者はわずか6名で済む。しかし、彼はアルコールとコカインの中毒者であり、搭乗前にもアルコールとコカインを摂取していたために、終身刑もあり得る過失致死罪で訴追されそうになる。しかしそうなってもまだアルコールをやめられない機長。果たして彼は来る事故調査委員会の聴聞会に素面で出席できるのか。
- 題名や公式サイト(勝手にムービーが再生され音が出るので注意。まだこんなサイト作る人がいるんですねえ)やポスターの作りからすると、なにかパニックムービーみたいにも見えるが、それは冒頭30分くらいだけの話で、残り1時間半の本題は、主人公の機長がアル中から立ち直れるかという話である。制作側からすれば、アル中の引き起こす害悪としてなるべく大げさなものを探した結果、航空機の機長という設定をひねり出したという方が実態に近いのではなかろうか。奇跡の着陸というのは、おそらく2009年に実際に起こったいわゆる「ハドソン川の奇跡」から着想を得たものと思われる。
アル中映画というと、ビリー・ワイルダーの『失われた週末』(1945)以来、時折思い出したように作られてきた歴史があるが、あまり成功した作品を見たことがない。そしてそれは本作も例外ではない(ただし、序盤の航空機事故のシークエンスは大変よく出来ている)。 - この話の最大の問題は、機長が事故直前に酔っていたことと、事故で死者が出たこととの間に、因果関係がありそうに見えないことである。因果関係がないのなら、機長が過失致死罪に問われる可能性もない。実際のシナリオでは、過失致死罪で終身刑になってしまうおそれがあるというので、弁護士が飲酒の証拠となりうる血液検査結果を証拠として使えなくさせるために動くくだりがあるのだが、以上のような理由でこれは無意味である。このために、話が大いに弛緩している。
ところが実際の結末では、結局飲酒を認めた機長が、減刑はされたものの過失致死罪で処罰されたらしい描写になっている。このことからすると、制作者は因果関係がなければ有罪にならないことを見過ごしていた疑いがある。 - 終盤の展開に納得感が乏しい。
まず、素面で聴聞会に出席できるかどうかが焦点になるのだが、前述の問題をさておくとしても、聴聞会に素面で出席しなかったからといって事故の際も飲酒していたことになるのか疑問である。久々に友人に会ったので昨晩はつい飲みすぎたとかなんとか、それ自体は言い訳できないほどのことではなさそうである。
次に、せっかく1週間強禁酒に成功していた機長が、聴聞会前日に泊まったホテルの冷蔵庫に酒を見つけてつい飲んでしまうのだが、これもちょっと納得感が薄い。というのは、少なくとも話の前半では意外に酒に対して意思の強いところを見せていたし、後半に入ってからも、酒を飲むためには何でもするというほどの強い依存性は感じられなかったからである。要するにこのあたりの前フリ描写が不十分なのである。
また、聴聞会での尋問で、酒についてのウソは得意だからと言ってシラを切りとおしていた機長が、最後の質問で突然翻意したのも納得感が乏しい。機長がカテリーナ・マルケスにそんなに思い入れがあったという話は聞いてない。あれでは脚本家の都合で無理やり人物を動かしたと言われても仕方ない。中盤、ニコールがあれだけ前面に出て来ていたのだから、むしろニコールがここで何か絡んでくるのかと思ったら、全然関係ないまま終わるのにも驚いた。
60点/100点満点