WOWOWにて鑑賞。
- 右半身不随となった老妻を夫が献身的に介護するが、それもむなしく病状は進み、ついに妻を安楽死させる話。話の種類としては、30年くらい前に日本のTVドラマで流行った難病もののようでもあり、『カッコーの巣の上で』のようでもあり、フランス版『東京物語』のようでもある。
- パルム・ドール受賞作。その通り、良くも悪くもカンヌ映画らしい内容である。
- 演技・演出に文句はない。老夫婦の2人の演技はさすがに年季が入っていて安心して見られる。そしてあの鳩の演技! 音楽の使い方が控えめなのも好印象である。演出的に見て、概して上品で手堅い仕上がりで、その点では確かにパルム・ドールも伊達ではない。また同じ介護ものフランス映画でも『最強の二人』あたりよりこちらの方がよくできている。
- しかしシナリオには問題がある。最大の問題は、話の終盤、観客にとってまったく不意打ちな形で夫が妻を殺す行為の動機が、暗喩を用いた遠回しな形でしか表現されないことである。あれだと、この手の映画を見慣れない観客には動機がまったくわからないか、下手をすると介護疲れで衝動的に殺してしまったと解釈されかねない。ある種の映画マニアや批評家はこういう「わかる人にしかわからない」映画をありがたがる傾向にあり、そしてカンヌ映画祭というところはそういう人たちの根城なのだが、その種の制作態度は映画産業を蛸壺化させる。権力側からの検閲が厳しく馬鹿な役人たちの目をくらます必要があるというなら別だが、そうでないなら、もっとわかりやすく作ることができたろうし、そうすべきであった。
- また、縷々ここで述べて来ているように、およそドラマの目的というものは、主人公の為したある特定の行為(とその結果)に対する語り手の評価を示すことである。この話の語り手は、ラストシーンに出てきているところを見ると、夫婦の娘であろう。そしてもちろんこの話における「主人公の為したある特定の行為」とは夫が妻を殺したことである。観客のドラマに対する興味はこの行為の評価に葛藤するところから生まれるが、この作品ではこれらの要素が明かされるポイントがあまりに話の後ろにあるため、大きく見た場合に中盤まで観客の興味を惹く要素に乏しく、個々のシークエンスには興味深い要素もあるものの、その単位で興味がブツ切りになっている。そのため、やや長尺の作品であることもあって、中盤まではダレ気味の感を否めない。せっかく冒頭、妻が死んでいるのが発見されるシーンから始まっているのだから、夫に殺されたらしいこともそこで一緒に明かしてしまえばよかったのではないか。
- 結末もまた少々曖昧すぎる。娘が父のよく座っていた椅子に座って佇むというラストシーンから娘の父に対するなんらかの評価が読み取れるかというと、父の椅子に座っているから父の行為を認めているのだと解釈できなくもないが、決め手に欠ける。ここももう少しわかりやすくできなかったか。
- ただ中盤まで、妻の介護に対する夫の献身的な態度は、立派に描けていた。ここはシナリオ上優れているポイントである。ただ、性格や人間関係の描写は、ドラマにとって手段であって目的ではないのである。よく文芸やシナリオの世界で「ドラマ(小説)は人間を描く」と言われるが、この限りでそれは間違いである。
65点/100点満点