『パピヨン』(1973)

 WOWOWにて鑑賞。「TSUTAYA発掘良品~100人の映画通が選んだ本当に面白い映画~」枠にて放送。

  • 無実の罪で終身刑となり、フランス領ギアナの収容所に流刑となった主人公パピヨンが、繰り返し脱獄を試みる話。実話ベースの話とのこと。
  • 「TSUTAYA発掘良品」は、B級映画として埋もれてしまったながら見どころのある過去の作品を選定してお勧め旧作レンタル作品として特設売場(というかレンタル場?)にてプッシュするツタヤの企画で、この放送枠はそれらの作品をWOWOWで放映するというTSUTAYAとのコラボレーション企画。
  • スティーブ・マックイーンとダスティン・ホフマン主演で演技・演出は申し分なく、またギアナの映像にも絵になるものが多い。それらの点だけ見ればちょっとした大作映画である。にも関わらずなぜB級扱いになってしまったかというと、これはシナリオが問題なのである。
  • まず、細かいことではあるが重要な点として、このシナリオだと、この話の理解に必要な予備知識をきちんと説明し切れていないという問題がある。例えば、当時、収容所での刑期を終えた収容者には不動産が支給されるが島から出ることは禁止という法律があったらしく、物語の終盤では、主人公ら2人が空き家の支給を受けてそこに住んでいる下りがあるが、そのような制度が存在するという説明がない。どうしていきなり空き家に住み始めたのか、観客には訳が分からぬままに話が進んでいく。そもそも終身刑だったはずなのにどうして刑期が終わっていることになるのかも未だ理解できない。
  • しかしこのシナリオのおそらく最大の問題点は、主人公のした脱獄という決断に観客が今一つ乗れないということであろう。ドラマにおいては、主人公は、観客が理想的と考える結果(観客の望み)を実現するために行動するのでなければならない(『はてしない物語』を見よ)。さもないとたちまち観客は退屈を始める。この話の場合、無実の罪で投獄されたならすべきことは再審で無罪を勝ち取ることであって脱獄することではないように思われる。脱獄しても名誉が回復するわけでないし、一生追われる身ではないか。そして実際の展開もその危惧の通りになるのである。そのような観客の望みと、主人公のしようとする脱獄という行為にズレがある。それでも実話ベースで行くと決めてしまったなら、史実に拘束されるからこうするほかないわけではある。実話の落とし穴である。
    しかもこのシナリオだと、本当に主人公が無実だったのかどうかも、主人公自身がそう言っているという以上の描写がなく、曖昧である。
  • また、それらのことと関係しているが、この話は結末の出来が悪い。結局主人公は島からの脱出に成功したということらしいが、あのラストではそんな風に見えない。そしてまたその結果が「めでたしめでたし」なのか、「残念なことだ」なのか、語り手の評価がよく見えない。そういう評価を語り手と観客と分かち合うのがドラマの結末のあるべき姿だが、この話はそうなってない。
  • ところでこの作品だが、『ショーシャンクの空に』の元ネタの一つであることが明らかである。『カッコーの巣の上で』が元ネタの一つであることは知っていたが、むしろこっちの方が影響が大きいようである。

55点/100点満点