『ブギーポップは笑わない』(上遠野浩平著・1998)

 第4回電撃ゲーム小説大賞受賞作品。ライトノベルが、それまでのTRPGリプレイ小説の延長線上から外れて独自の路線を歩み始める最初期に出た元祖ライトノベルともいうべき作品の一つ。この賞の名前がそれまでのライトノベルレーベルの位置づけをよく表している。
 ここでいう独自の路線とは、これまでもここで説明してきているように、一言で言えば十代男子向けのSFファンタジー風学園ロマンス軽小説という路線のことで、早くも本作でその要素はほぼすべて出そろっている。また、いわゆる「セカイ系」の源流でもある。
 その後ブギーポップシリーズの本は20冊近く出たが、本書はその第一作。作者曰く、本書は本書だけで完結しており、シリーズのその他の本は本書の姉妹編という位置づけとのことである。そのあたりの事情は『涼宮ハルヒの憂鬱』(谷川流著・2003年)とも似ている。

 この物語の本筋は、事件の表層だけを取り出して言えば、女子高生宮下藤花に「ブギーポップ」と名乗るなんらかの霊的存在が取り付き、その仲間にあたる存在と共に、彼女の通う高校に巣食い世界征服を目論む人食い「マンティコア」(やはりこれも高校生に取り付いて支配する能力を持つ)を退治するという話である。しかし、霊的存在と言っても、それは実際には取り付かれたとされた人間が元々持っていた別人格だったと解釈する余地もあるような曖昧で意味深な設定である。
 そういうことが何を含意するかという深読みの部分はひとまず置いておいて、表面的なドラマ性という面で評価するならば、これはかなり粗削りな作品である。物語は5つか6つくらいの章から構成されていて、それぞれの章で視点人物が違うが、藤花視点で進む章は存在せず、もっぱら藤花の周囲の人間から出来事が語られる形式になっている。そういう構成になっているために、上述のメタファを解釈しなければならないことと相まって、ライトノベルというわりにそれほどわかりやすい話にはなっていない。また冒頭の章でブギーポップが敵を倒したという結果を開示した上で話が進むこともあって、サスペンスとしてもミステリーとしても何か中途半端で、物語のそれぞれの時点で読者に何に興味を持たせようとしているのかという狙いが曖昧になっているように思われた。

 そういえば、学園ファンタジー形式の物語に寓意を持たせるというやり口は、その後のライトノベルにしばしばみられるところだ(そもそも寓意というものはファンタジーの本質的要素ではあるが)。『涼宮ハルヒの憂鬱』にしても『ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ』(滝本竜彦著・2001年)にしてもそうだった。そういう意味でもこの作品はライトノベルの元祖であり、お手本なのだろう。

65点/100点満点