『オリエント急行殺人事件 前編』(2015・TVドラマ)

 フジテレビにて鑑賞。

 おそらくアガサ・クリスティ作品で知名度ベスト3に入る代表作で、叙述トリック抜きの作品としてはもっとも意外な結末を持つものとして有名な原作のTVドラマ化。三谷幸喜脚色。前後編構成で、この前編は、舞台を日本に移した以外ほぼ原作通りのストーリー。後編は視点を変えたオリジナルストーリーとの由。原作の映像化としては、シドニー・ルメット監督・アルバート・フィニー主演の1974年の映画版がおそらくもっとも有名で、評価も高い。
 実際見てみた印象は、絵作りも含めて映画版とほとんどそっくり。そしてやっぱり、TVドラマとしちゃ相当健闘してはいるけれど、映画版には劣るなあという印象。もともときわめて分の悪い勝負なのは見えているのだから、どうしたって比較される内容の前編なんていらなかったのではないかとも思うが……。なにしろ有名な話で犯人を知っている人も多いはずなので、結末を変えてくるかとも思ったがそんなことはなかったようだ。
 演技面で言うと、役者によって演技の質に相当なバラつきがあった。主演の野村萬斎は外連味ある芝居ながらまずまず健闘していたと思うが、その他の俳優の演技のレベルにはかなりバラツキがあり、総じて若手の演技の質が低い。特に二枚目役の沢村一樹と二宮和也は、演出家の責任もあるとは思うが、タレントとしてはともかく、プロの俳優としての水準には達してない。沢村一樹はまず発音の訓練が必要。二宮和也はカッコつけるのをやめること。それと西田敏行なのだが、あの人は何を演じても西田敏行という役になってしまう人で、この作品でもあまり車掌という感じはしなかった。
 脚本面では、まあ基本原作通りだから大枠については特に文句はないのだが、細かいところの処理には疑問がないでもなかった。特に序盤の方、発言に十分な動機付けが与えられてないようなセリフが目立った。またこれは演出側がカット割りなどでカバーするなり脚本家に修正を要求するなりしなかったという責任もあるかも知れないが、演技の合間などに変な間ができる箇所が結構あって、これはたいてい、脚本家がシナリオ上セリフがあるべきところに(ト書きの動作だけで)セリフを書かなかった凡ミスが一因である。三谷幸喜ってこんなに下手だったっけ、と思いながら見ていた。後編が本番ということで前編は雑になったのかも知れぬ。
 あと鉄道省の重役(上級公務員のことを重役とは言わないけどなあ)のあの人はいったん一般車両に行ったらしいけど、一般車両との間の行き来はできないとも言っていて矛盾していないだろうか。というか、そもそも推理の過程において一般車両がいつの間にかなかったことになっているような気がする。車両の屋根でも伝って一般車両の方に犯人が隠れている可能性だってあるはずなのだが。
 映像面。この作品、冒頭以外は列車の中だけで展開する話なので意外にシーンの種類の数の少ない演劇的なドラマなのだが、その列車についてはなかなか金のかかっていそうなTVドラマ離れのした重厚な映像。SLで牽引してるシーンなんてどうやって撮ったんですかね。
 編集面で、カットの割り方がちょっと貧相というか、長めのカットで撮り続けるものだから間延びした感じになっている箇所が度々あったのは残念だった。カット割りを工夫すればもっと時間をつまんでスピーディーに進行できたと思う。また、尋問のあと3人が感想を述べる下りが何回もあるが、被尋問者が完全に退室しないうちから話し始めていて早すぎた。そうしないと間延びしてしまうからということだろうが、これは間違いで、いったんカットを割って退室までの時間をつまむのが正解なのである。