- とある高校の冴えない理科教師である城戸が、プルトニウム化合物の溶液を原発から盗み出し、自宅でそこから精製したプルトニウムを使って原子爆弾を制作することに成功。警察に脅迫電話をかけて日本政府に対し様々な要求を繰り出す。その内容は、プロ野球のTV中継を試合終了まで延長しろだの、ローリング・ストーンズの日本公演を実現しろだのという奇妙なものだったが、実現しなければ原爆を爆発させるというので、日本政府はそれらの実現のため東奔西走する。事件を担当することになった山下警部は、果たして城戸を逮捕することができるのか、という話。
- 純然たる娯楽アクション大作で、子供にはちょっと難しいかも知れないがだいたい誰が見ても楽しめる出来。芝居もいいし、爆薬の量もまずまず。昔の邦画はよかった。
- プルトニウムを盗むところはちょっとウソ臭かったが、その後の原子爆弾の制作過程がなかなかリアルな感じ。Wikipediaによると、精製はともかく爆縮させる機構が難しいのであんな簡単にはいかないとのことではあった。作中では原爆として起爆できたかどうかがはっきり描写されなかったから、実はできてなかったという解釈も可能か。
- 上述のあらすじはどちらかというと山下視点で記述したが、実際のプロットは城戸と山下の両方の視点で進むサスペンスである、つまり城戸の意図はおおむね早い段階で観客に開示される。むしろおそらく城戸視点のシーンの方が多く、ピカレスク調のストーリーと言うこともできそうである。そのため一見シリアスな話に見え実際に演出もそうなっているが、筋の本質はむしろ喜劇的である。つまり城戸と山下のどちらのすることも結構わかるナア、でも両方の望みは叶えられそうにない、なんとかならないかナアという喜劇型の葛藤で話を進めていく構造のプロットになっている。観客がもし城戸のように原爆を手に入れてしまったらやはりそれを使って望むものを手に入れようとするかもしれないし、山下の立場だったらなんとしても城戸を捕まえようとするだろう、と思えるように語られているのである。ただ結末では残念ながら葛藤を解決できてなくて、そこが最大の欠点である。こういう話はどちらにもそれなりの幸福が訪れて終わらないとダメだろう。とはいうものの、総じて話運びは自然で、近頃の邦画には見られないレベルの高いシナリオである。
- ロケ撮影では無許可撮影や危険なスタント、交通妨害など相当な無茶をしたようで、予算を別としても今同じものを撮ろうとしてもまず無理だろう。しかしとにかく見ごたえのある映像の多い作品であることは確かである。現代と変わっているようで案外変わっていないところもある70年代後半の新宿の様子を眺めるのも楽しい。
75点/100点満点