『[リミット]』【ネタバレ】

 WOWOWにて鑑賞。

 邦題の『[リミット]』は意味不明だが、原題は『Buried』で、棺に入れられて生き埋めにされた男の話。
 とにかく大変意欲的にして大変低予算な作品である。約1時間30分の全編を通して棺の中のワンシーンのみ(ワンカットではない)。棺に入る前も出た後もない。しかも明かりがない状況だと画面は真っ暗。
 ワンシーンワンカットで有名な(といっても、正確には2シーンある)ヒッチコックの『ロープ』なんかはいかにも演劇的という感じだったが、こちらはカット割りが細かくされているし、棺の中の狭さもよく伝わってきて、そんな風に感じさせない。
 出演者も姿が映るのは1人のみ。彼自身は演技も達者で名も売れているらしいが、それにしても大した予算が必要とは思われず、しかもこれで結構ヒットしたのだから、プロデューサーにとっては夢のような作品だろう。

 ただ、やはりそれだけで長編映画の1時間30分の尺を埋めるのにはやはり多少無理があったようで、これはちょっとあり得ないんじゃないかという展開も散見された。特に意味もなくヘビが出てくるのには思わず苦笑した人が多かっただろう。だいたいズボンの中にいたらすぐ気付くって。あのアイテム袋みたいなものも初めに気付かないとは思えないなあ。
 また、人物の人間関係がよくわからないまま話が進むのも頂けない。あのムービーに出てきた女性はなんだったのか、最後までよくわからなかったし、そのために人事部長の言い分も正しいのか正しくないのかも不明なままだった。いやそもそも、人質に取られた社員のために身代金を払う義務などというものはもともと法的な義務としては存在しないのであって、あわてて解雇する必要があったのか自体が疑わしい。世間的な評判を気にしたということなら、理由はどうあれ誘拐当日に解雇したりすればそれ自体が社会から非難されてしまう。
 しかしこの作品のストーリーの最大の問題点はやはり結末だろう。悲劇的な結末であること自体は問題でない、というより、この話はアメリカがイラクでしたことを非難しようとするものなのだから、結末がハッピーエンドだったらむしろまずい。しかし、物語が棺桶の中で生き埋めにされたという状況から始まった以上、単にやっぱり生き埋めにされるしかありませんでしたというのでは期待外れである。それではこの話の冒頭10分だけ見て残りを見なくても同じことになってしまい、何のために1時間20分を費やしたのかわからなくなる。やはり、棺桶からは出られたけれども、家族が惨殺されてしまったとかというようにすべきである。
 言い換えれば、物語においては、その中にその後の出来事と因果関係を持たないような事実が存在してはならないのである。犯人との電話交渉にしろ、会社や妻との連絡にしろ、FBIだかCIAだかの救出作戦にしろ、それらがあってもなくても生き埋めになるという結果は起こったのだから、それらは結果と因果関係を持たないことになる。したがって、生き埋めになるという結果を維持したいならば、それらはすべて物語から除去しなければならなかったはずのものである。
 また、さらにいうならば、語り手として観客に過去の経験を報告している人物であるはずの主人公が死ぬというのは、厳密に言えば矛盾してもいる。どうしても死者の体験を報告させたいならば、本人から生前に話を聞いた人物を別途用意して、その人を語り手とするのがよい。

 それらの点を考慮してストーリーは1点減点。それでも、棺桶の中だけで1時間30分持たせた腕は大したものではある。

75点/100点満点

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