WOWOWにて鑑賞。
- この作品の制作者が誠実に素晴らしい映画を作ろうと努力したことを疑うものではないが、客観的に評価すれば、手術シーンを除き、あまり成功した作品とは言い難い。その意味では、2000年代以降における邦画界の実力の限界を象徴的に示す作品と言えなくもない。
- まず脚本面での最大の問題は、葛藤がきちんと作れていないことである。だから手術シーン以外のところでは退屈で話が持たない。本来この話は、生体肝移植を成功させて市長を救うことができるかというところで観客を心配させる葛藤を作らなければならないはずなのだが、成功率は五分五分だと形だけ言いはするものの、具体的に何か不安な点が示されるわけでなく、却って当麻が凄腕外科医であることのみが示されているし、またライバル医師たちも手術そのものは妨害する意思を持っていないので、観客が手術が失敗すると心配する要素がほとんど何もない。
- あるいはまた、当麻が殺人罪に問われるかどうかというところで葛藤を作るつもりなら、むしろ手術はあっさり終えてそのあとの裁判をメインにすべき。しかし実際には裁判どころか手術後刑事すら登場しなかった。ちなみに、殺人罪は親告罪ではないので逮捕に告訴不要なうえ(なお告訴権者はこのケースでは遺族だけだが、移植は母親からの依頼があってすることなので、告訴はほとんどありえない)、予備罪もあるので、手術前の時点で逮捕は可能だった。
- またそもそも、観客から見て、殺人罪に問われるリスクを冒してまでも市長を助けるべきと思えるような事情がないので、観客が当麻の手術が成功してほしいと強く願うような展開になっていない。極端に言えば、当麻がやりたいから勝手にやってるだけという見方になる。
- しかしなんといっても、尺が長すぎる。カットできるところが沢山あった。もっと縮めるべき。特にドナー提供者側の話は、制作者の側に思い入れはあったのかもしれないが、ざっくりカットすべきだと思う。一方、市長の娘の描写は薄すぎた。
- 演出については、概して演技過剰の傾向があった。特に堤真一の演技は少々鼻に付いた。ただ概して女優の方が出来が良かったようである。五郎ちゃんこと松重豊もOK。
- どうしても気になってしまったのは生瀬勝久のキャスティングである。もはやサラリーマンNEOのイメージが強すぎて、この人の出てくるシーンはコメディにしか見えない。キャスティングにあたっては当然、俳優についているイメージも検討に入れるべきであって、彼をシリアスな役に割り当てたのはミスキャストである。逆に言えば、変なイメージが付いて役者としての活動が制約されるのが嫌なら、無計画にバラエティ番組に出てはいけないのである。なお、柄本明のキャスティングが成功かどうかについてはどうもよくわからない。これでいいような気もするのだが、軽すぎる気もする。
- 当麻のキャラクターについては、三谷幸喜の傑作TVドラマ『振り返れば奴がいる』の影響を強く受けていると感じた。ただ、このドラマ自体『ブラックジャック』や『白い巨塔』の強い影響を受けているので、どこから拝借してきたのかなんとも言えないところはある。
- 手術シーンに見ごたえがあることだけは確かである。
60点/100点満点