1979年の在イラン米大使館人質事件で、その直前密かにカナダ大使館に脱出していた6人の大使館員を、『アルゴ』という名の映画の撮影クルーだと偽ってCIA局員が出国させる実話ベースの話。
- 大使館人質事件の発端を描く導入部の出来はよかったが、その後だんだん失速していった感じ。
- 基本的にシリアスドラマのはずなのだけど、ところどころ中途半端にコメディーのようになってしまっているところがある。映画クルーのふりをしたという歴史的事実そのものがコメディチックなのでどうしてもこうなるのだろうが、シリアスドラマは立派だとほめたたえるのに対しコメディは愚かなことをしているとバカにするものであって、いかんせん両立はしにくい。どちらかに絞るべき。
- 実話ベースだからということはあっただろうが、葛藤のかけ方が中途半端すぎる。この話の観客は、脱出に成功するという結末はどうせはじめからわかった上で見ているのだから、もっと困難な状況に追い込まないと人物たちの運命を心配できない。
- 結末のつけ方だが、主人公を讃え報酬を与えて終わるのは構造主義的な定式通りではある。にもかかわらずどうも印象が薄いのは、ひとつには彼の犠牲が結果的には大きくなかったことがある。しかしそれ以上に問題だったのは、この物語によっていかなるテーマについての答えが例証されたのかがはっきりしなかったことである。そもそも物語の究極の目的は、科学的には決着のつかないような問題(テーマ)について、一つの答えの可能性を例示することである。この種のストーリーだとそのテーマは「西欧社会はイスラム社会より強いか?」のようなものであることが多いのだが、この話だとその答えを提示しているように見えない。結果的に成功したといってもかなりグダグダだったわけだし、大使館にはまだまだたくさん人質が残っていたのだから。
- どうも全般的に脚本技術に不満が残る。
55点/100点満点