『疑惑の影』(1943)

 WOWOWにて久しぶりに再鑑賞…のはずなのだけど、かなり断片的にしか覚えてなかった。

  • ヒッチコック中期の作品。
  • ざっくりあらすじを言うと、田舎に住む若い女性が主人公で、ある日彼女の叔父にあたる男が主人公の一家を訪れてそこにしばらく滞在することになるが、彼はどうやら警察に追われているようであり、主人公は彼が罪を犯したのかと疑うという話である。
  • ヒッチコックの全盛期は1951年の『見知らぬ乗客』あたりからで、本作あたりでは、ヒッチコックらしさの片鱗は伺えるものの、まだ粗削りの印象が拭えない。といっても、この作品の問題は演出より脚本の方である。ヒッチコック作品の成功は、アルマ夫人が脚本に口を出すことでストーリーの質が高まったのが一因と聞くが、実はこの作品では夫人自身が共同脚色を担当している。やはり自分で書いたものを客観的に見るのは容易ではないということか。
  • このシナリオの最大の問題点は、語り手である姪がただ疑い続けているだけで、何かをするように倫理的にダブルバインドされていないというところである。つまり葛藤が不完全である。本来は、例えば彼が本当に殺人者なら彼が目撃者を殺すかなにかしようとしているのを防ぐために彼女は警察に協力しなければならないが、殺人者でないなら冤罪で処刑されるのを防ぐために警察から匿わなければならない、という風になっていなければならない。ところが実際のこの話の状況では、殺人者であろうがなかろうがどちらにしろ(血縁者としては)匿うことになるから、姪のなすべき行動自体にほとんど悩みが出てこないのである。そのあたりを朧げながら意識した形跡が話の終わりの方にあるが、あまり成功していない。

60点/100点満点