『人生の特等席』(2012)

 WOWOWにて鑑賞。

  • クリント・イーストウッド製作・主演作。だが監督作ではない。
  • かなり複線的な話なのだが、本筋に限って言えば、昇進目前のモーレツキャリアウーマンの娘が、野球のスカウトをしている父が失明の危機にあるというので、父の下に駆けつけて父の仕事の手伝いをするという話である。父の世話と昇進とを両立できるかというのが一応の葛藤になっている。
  • 原作のないオリジナル脚本作で、良くも悪くもウェル・メイドな話、いかにも脚本家が考えた風なストーリー構成である。つまり型どおりで凡庸ではあるがある種の安定感はある。
  • このシナリオのいいところと言えば、やはり話の前半で父と娘の人間関係が魅力的に描けているところだろう。セリフ回しもそこそこ気が利いている(もしかするとこの2つは同じことを言っているのかも知れない)。
  • 一方、問題点はまあいろいろあるのだが、一番大きいのは葛藤が弱いところだろうか。昇進か父かというのは確かに本人にとっては悩みどころだが、昇進は倫理的にみて義務ではないので、両立できるように努力はするにしても、できなければ昇進はあきらめるしかないねということで観客には初めから結論が見えているわけである。だから、観客としては、昇進と父とでどちらを選ぶべきかについて詳しく検討しようという意欲がわかない。そういう意欲は、続きを見たいという興味の源泉であって、「どうなるんだろう感」を演出するために重要である。これが例えば、離婚した父と母が同時に病気になって、どちらかしか面倒を見られないなどという話であれば、どちらへの義務が優先するかに観客は興味津々のはずである。本来葛藤とはそうあるべきである。そういう意味では、ドラマの観客は裁判官なのである。
  • もう一つ問題点を挙げるとすると、結末に意外性がないことであろう。アリストテレスいうところの、ペリペテイアのない単純な筋になっている。さらにいうなら、ちょっと都合がよすぎるようでもある。
  • クリント・イーストウッドの演技は相変わらずいい味を出している。娘役のエイミー・アダムスもなかなかの美人。その恋人役のジャスティン・ティンバーレイクは、イケメンではあるがちょっと男性らしさが足りなかったような気がするけど、まあそれは役柄自体の問題かな。

68点/100点満点