『うみねこのなく頃に』(PCゲーム・2007~2010)

 一度は投げ出したが、それでは文句も言えないと考え直し、一応クリアした。

 とにかく、何が何だかさっぱりわからない話であった。事件の真相は考察サイトを見なければわからなかったし、それ以上に、一体この作品で作者が結局何がしたかったのかついぞ理解できないままであった。しかし敢えて言えば、この作品は、少なくとも部分的には、読者と作者との戦いの記録であると言うことができるだろう。
 おそらくこの作品の当初のコンセプトは、作者の竜騎士07氏が、『ひぐらしのなく頃に』でこれはミステリーではないと批判されたのをなんとか跳ね返すために、今度こそ文句なしの本格推理に挑戦する、というようなものだったろうと思う。そのために凝りに凝ったトリックを大量に用意し、満を持してepisode 1を送り出したはずである。だが、一度でも「信頼できない語り手」に手を染めてしまった作者の書く地の文は信用できないということで、不幸にも読者から推理物としては相手にされなかったのではないか。そしてそこからこの作者の迷走が始まったのではないかと思われる。この『うみねこ』から何かを読み取るとすれば、推理作家は絶対に地の文にウソを書いてはならないという教訓であろうか。ちなみに、この話の元になったクリスティの『そして誰もいなくなった』は叙述トリックの名作だが、地の文でウソは書いていないから、「信頼できない語り手」を用いた作品ではない。
 もう一つ教訓を付け加えるなら、読者は楽しませる相手であって競争相手ではないということだろうか。当ブログの筆者は学生時代TRPGのゲームマスターをやっていたことがあり、語り手の立場であるにもかかわらずプレイヤーと競り合いたくなる気持ちはわからないでもないが、やはりそうすることは間違いである。語り手が権力を振り回せば無理やりプレイヤーに勝つことはもちろんできるが、それではプレイヤーにとっていいシナリオにならない。結局のところ、作者は最後には読者に負けてあげる立場でなければならぬ。しかし推理小説の分野ではどうしても読者を出し抜くという要素が強いために、ここのところを誤りがちである。
 竜騎士07氏の語りの実力は『ひぐらし』の頃からいささかも衰えていない。しかし正直言って、楽しむために読み始めたつもりなのに、こんなややこしく不愉快でわけのわからない話を延々8話も読みたくなかった。その意味で、この作品に対する世間の悪評には一定の根拠があると言わねばならぬ。竜騎士07氏が読者を敵視し、楽しませる姿勢を放棄し続けるなら、筆者としては今後距離を置くしかない。

-50点/100点満点
単にプレイする価値のない駄作であれば0点とするところだが、この作品には読者に対する敵意と悪意が渦巻いているように思われ、プレイすることが却って有害と考えられることから、マイナス得点とさせて頂いた。