字幕・3D版にて鑑賞。
- 『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズの前日譚である。トールキンファンのためのファンムービーで、前シリーズ同様一見さんお断り。これを見に来る観客の7割は既にストーリーを知り尽くしており、いかに映像が原作のイメージ通りに再現されたかをチェックするために劇場に足を運んでいる。
- ファンとしては、まずまず満足できる出来である。ホビット庄(という訳語が復活した)や裂け谷の美術や、大自然の風景は、前シリーズ同様に美しい。話の中身も原作に忠実である。また、次回作送りかと思われた「指輪」のシークエンスもこの第一作に入っていた。一方、ピーター・ジャクソンお得意のモンスターが絡む映像の造形は、前シリーズ同様、過剰に醜く作られており、原作の雰囲気にふさわしくないし、真実味にも欠けると思う。だいたいモンスターの数も多すぎる。あんな過密状態で普段どうやって生活しているんだ。
- 前シリーズ同様、独立した一つの作品として見た場合の完成度は、あまり高いとは言えない。特にシナリオの出来は、相変わらず稚拙であるといっていい。原作の内容を尊重したからということもあるだろうが、むしろフラン・ウォルシュとフィリッパ・ボウエンの脚本技術の問題が大きいと思う。彼女らの他の作品も見たことがあるが、彼女らの脚本は、どうしても語り手の決断に至る心情でなく出来事の方を追ってしまうようである。今回の話で言えば、ビルボはいくつかの決断をしている。一行とともに冒険に出るかどうか、足手まといと言われて家に帰るかどうか、オークからトーリンを救うかどうか。この作品のプロットで観客はこれらについてビルボが下した決断にもっともだと共感できただろうか。私には疑問に思われる。また同じ原因により、ラダガストやトーリンに絡んで視点が混乱しているシークエンスも見られた。
- とはいえはじめに記したように、観客はストーリーはもう知り尽くしているのだから、シナリオの欠点はあまり致命的ではない。ただ、残り3割の一般客には憐れみの念を禁じ得ないのである。
- ところで当たり前のようで今まで気づかなかったのだが、ビルボって地主階級なんだな。
80点(トールキンファンとして)/100点満点
30点(一般の映画ファンとして)