WOWOWにて鑑賞。
- 人気テレビアニメシリーズの結末にあたる劇場版。だがそのテレビシリーズの方はほぼ未見。
- 主人公たち高校軽音部の3年生4人が卒業するにあたり、可愛い後輩の2年生中島梓……じゃなくて中野梓に曲をプレゼントする話。
- あれだけネットで話題になっただけのことはあって、確かに梓の可愛らしさはよく描けている。
- ドラマの構造としては典型的な喜劇型であり、周囲の状況から来る刺激に人物たちがどのように反応するかを描写するエピソードの積み重ねで話が進んでいく。つまり人物の行動は受動的である。その点で人物が能動的に周囲の状況に対して働き掛けるシリアスドラマ型と対照的であり、いわゆる「ドラマチックさ」には欠ける。したがってその分喜劇型ドラマでは展開や人物の性格に強烈なパンチが必要だが、この作品ではそのあたりがちょっとユルく、梓の可愛らしさに頼りすぎのように思われた。また、どうしてもこのタイプの話では、話の先行きに対する関心が薄くなりがちであり、今回この作品を鑑賞し終わるのに休み休みで1か月近くを要した。1話が20分強で終わるTVシリーズならこれでもいいのだろうが。
- 卒業旅行として軽音部のメンバーたちがロンドンに行くというのが今回の話のウリになっているのだが、この話だとそれに必然性があったか微妙なところである。すなわち、この話のテーマは、直接には梓にどんな曲をプレゼントするべきかということだが、それに対して「いつも通りの曲でよい」という答えを得たことと、ロンドンに行ったこととの関連が弱いような気がするのである。極端な話、ロンドン部分をまるごとカットしても話の理解になんら影響を与えないのではないだろうか。
- 卒業の日やその前日の描写はやや冗長である。筆者がシナリオを書くなら、この日の出来事は梓の視点で彼女から見えた部分だけを描くし、別れの寂しさをもう少し強調したところである。先輩たちが梓に曲をプレゼントしようとしていたことも、ラストまで観客にも隠すべきだったかも知れない。
- それに、梓への曲が始まった時点でエンドロールにして、梓の反応は観客の想像に任せる形にすると思う。せっかく梓への想いを嫌味なく伝えられたいいシーンだったのに、そのあとにごちゃごちゃつけたのでは余韻がぶち壊しである。梓が先輩たちをどう思っているかがそこまでで充分描写されていれば、梓がどういう反応を示すかはわざわざシーンとして描くまでもなく自明なのだし、またそうなるようにそこまでのプロットが作られているべきであった。
- ただ作者たちの彼女らへの愛情が感じられる作品ではあったと言えよう。これで最後なのだから愛すべき彼女らをロックの聖地イギリスに連れて行ってあげたかった……などと言われれば非難はしにくい。
55点/100点満点