『風立ちぬ』

  • 宮崎駿最新作。三菱の航空機の設計者堀越二郎が結核に侵された妻菜穂子を犠牲にしてゼロ戦を完成させる話。堀越の評伝と、ゼロ戦とは関係ない小説『風立ちぬ』をニコイチにした話らしい。
  • まあ狭い意味でのアニメーションそのものは毎度のジブリクォリティで特に不満はないのだけれども(美術だけはやはり山本二三には劣るなと思いましたけど)、脚本の方はどうもかなり問題を抱えていますねえこれは。宮崎駿のネームバリューがあるからいいですけど、ほかの人間が作ってたら第二のゲド戦記の汚名を着ても不思議ではなかったところです。とにかく話が退屈なのがなによりまずい。第一にこれは人物の心情より出来事を追ってしまって段取り芝居になってしまっているのがよくなかったし、またそれと関連していますが、第二には話に葛藤がありませんでした。私が書くなら、結婚はもっと話の前の方に持ってくるし、ゼロ戦の設計を倫理的に義務づけるようなエピソードを冒頭に追加して、これらの間で葛藤を作るところです。でも宮崎駿のポリシーとして戦闘機を作ることを美化するのは抵抗があったんでしょうねえ。結局そこをどう評価するのかが曖昧で、結末も中途半端になってしまいました。ゼロ戦を設計することを「美しい」と表現するのは逃げでしょう。良いことなのか悪いことなのかはっきりさせないと。
  • 主役に抜擢されて話題となっていた庵野秀明の演技だが、そこだけ見ればやはり失敗でしょう。『トトロ』の糸井重里、『耳すま』の立花隆より下手だし、なかなか味のある声だったこれらに比べて声質の点でも疑問です。というか、脇役のトトロや耳すまの父と違ってこれは主役なんで、感情入れないといけない難しいシーンが結構あるんですけど、そういうところがダメでしたね。ただ、この話は師匠宮崎と弟子庵野の話でもあるのかも知れず、そう解釈するなら上手い下手にかかわらずこのキャスティングしかありえないのでしょう。ただそれならカプローニも宮崎駿が演るべきでした。
  • 総合評価としては、金曜ロードショーで見れば十分といったところじゃないでしょうか。
  • ところで宮崎駿のクレジットが「原作・脚本・監督」となってましたが、少なくとも小説『風立ちぬ』との関係では「原作」を名乗るのはまずいのでは。まあ漫画版があるからということなのかもしれませんが、小説の方も少なくとも原作として併記しないと。もともと日本の映画・アニメ界は脚本と脚色の区別をしなかったり、手直し程度しかしてなさそうな監督が共同脚本を名乗ったりとかなりルーズな運用のようですが、感心できません。
  • なんだか全体的に細田作品の影響を受けているように思えたのは私だけでしょうか。特に冒頭などはサマーウォーズと時かけを足して2で割ったような…

45点/100点満点