投稿者「admin」のアーカイブ

『史上最大の作戦』(1962)

 WOWOWにて鑑賞。

  • ノルマンディー上陸作戦を連合国側・ドイツ側の複数の軍人の視点から描いた作品。
  • ノルマンディー上陸作戦というとやはり『プライベート・ライアン』(の冒頭)と比較してしまうが、『ライアン』では強烈だった上陸時の悲惨さの描写は控えめで、兵士の戦いぶりがどちらかと言えば英雄的に描かれている。
  • また、『ライアン』が単一視点なのに対しこちらは多視点で、相互にあまり影響を及ぼさないエピソードを複線的に混ぜ合わせたようなタイプのシナリオなので、その分ドラマとしてのまとまりは悪い。ただ、ストーリーの本筋は全体としてドイツ側の犯した失策(ハマルティア)を説明していると解釈できなくもなく、そう考えればドラマとしての最低限の形式は整っていると言えよう。
  • CGもない時代の映画としては大変な労作。ただもう少し尺は短くてもよかったと思う。

『ダイヤルMを廻せ!』【ネタバレ】

 WOWOWにて久しぶりに鑑賞。HD版は初めてかな。

  • ヒッチコック作品としては『裏窓』『サイコ』の次くらいに好きな作品。よくできたシナリオです。
  • このWOWOW版(菊地浩司訳)では、最後の決めゼリフ”Well, as you said, Mark, it might work out on paper”が「マーク 筋書き通りだね」と訳されていたが、これはおかしい。以前見た訳は確か「やはり計画通りにはいかないものだね」か何かだったはず。この話の要点は、マークが言うように、現実世界では想定外の事態が次々に起こるものだから、完全犯罪などというものは推理小説の世界の中だけの話だということなのだから。

最近のアクセス状況

 このサイトで一番人気のコンテンツは長らく「C#のデリゲートとイベントの使い分け」(Google検索「デリゲート イベント」で3位)だったんですが、ここ最近「時をかける少女問答集」へのアクセスがナンバーワンとなっています(同「時をかける少女 解説」で2位)。また、「TOEICで900点を達成するためのたった6つの知識」(同「TOEIC 配点」で2位)も、初めの頃のまったくアクセスのない惨状から比べるとだいぶアクセスが増えてきました。
 ただあまり収入増にはつながっていないのがつらいところです。

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』

  • 破のときも思ったけど、これシナリオ庵野秀明が書いてないだろ。素人同然の出来だぞ。
  • あえて最大限好意的に解釈するなら、尺が足りなかったののかも知れないが、それにしてもひどい。謎めいているのがエヴァの身上とはいえ、最低限語り手であるシンジの行動に観客が共感できるように書かなければドラマとして成立しないのに、それよりも出来事の方を追ってしまっていた。特に冒頭30分あたりまではひどかった。その後は視点がシンジに戻ってきて少しはましになったものの、まだまだ説明不足であった。

25点/100点満点

『カーズ2』

 WOWOWにて鑑賞。

  • 基本的には子ども向け映画だけれど、ストーリーのほうは、子どもに完全に理解されうる内容とは考えにくいので、一応大人向けに書かれていると思う。
  • それを前提にして評価するが、このシナリオはなんというか……一応教科書的な定石は一通り抑えてありそうなのにもかかわらず、どうも薄っぺらさばかりが印象に残った。たぶん、本質的に喜劇的な話に無理にシリアスな要素を混ぜ込もうとするから中途半端になってしまっているのではないだろうか。今回の話は要するに主人公のマックイーンが親友メーターと仲違いしてしまう話なのだが、その結果メーターに何か深刻なことが起こったかというとそうでなく、むしろ彼に大活躍の機会を与える結果が生じたわけなので、シリアスになりようがないのだ。

45点/100点満点

『レナードの朝』

 WOWOWにて鑑賞。

  • 主人公の医師セイヤーが嗜眠性脳炎患者にパーキンソン病の新薬を投与したところ、劇的な改善が見られたが、しばらくすると元に戻ってしまったという話。レナードはその患者の一人。実話が元になっている。
  • 『アルジャーノンに花束を』を連想させる話である。ひょっとするとこの話を元ネタにしたのかも知れない。
  • シナリオの出来はあまりいいとは言えない。先を見たいと思わせる力に乏しく退屈なシーンが多い。展開に意外性がない。そして最大の問題は、レナードが元に戻ってしまってもあまり悲しくないことである。

45点/100点満点

『STEINS;GATE』(ゲーム)

 Windows向けNitro The Best!シリーズ ダウンロード版でプレイ。

  • 最近しきりに世間を騒がすnitro plus界隈。物語愛好家としてはなにか一つプレイしてみなければなるまいと思いつつもなかなか機会がなかったが、なぜか今になって衝動買い。3000円と安かったこともある。「アドベンチャーゲーム」に分類されるゲームを購入したのは、確かエルフソフトの『同級生』あたりが最後で、そうすると……なんと約20年ぶり!?
  • あの堀井雄二のデビュー作『ポートピア殺人事件』を挙げるまでもなく、アドベンチャーゲームはPC黎明期にはゲームの花形だったが、その後次第にRPGなどの他ジャンルのゲームがストーリー性を強めるのにつれ押しだされるようにして衰退、上述の『同級生』あたりからほとんどもっぱらエロゲー・ギャルゲーの分野でのみひっそりと生き続けてきた……というのが個人的な理解。本作も発売元のnitro plusはギャルゲーメーカーであり、いちおうその系譜に属する。ただ、エロシーンはないし、キャラクターデザインもあまり「萌え萌え」していない。
  • アドベンチャーゲームの世界では、チュンソフトの『弟切草』あたりから読み物としての性格を強めるトレンド(ノベールゲーム化)が確立したらしいと仄聞してはいたものの、実際プレイを初めてみてやはり驚いたのは、アドベンチャーゲームなのにまったく選択肢が示されないこと。結局一つも「選択」をなすことなく「不可逆のリブート」エンディング(いわゆる鈴羽ED、マルチエンディングのうちの一番手前の結末)まで進んでしまった。これはまさにアドベンチャーゲームというよりノベルゲームである。
  • これで終わりではあるまいと思って攻略サイトを覗いたところ、主人公の持っている携帯電話に送られてくるメールに返信するかどうかでストーリーが分岐するシステムだったらしい。マニュアルが付属しないこともあって、受信は直観的にできるが送信方法がわかりにくい。
  • 一番初めのエンディングにたどり着くまでに要したプレイ時間は9時間弱。普段親しんでいる映画やドラマと比べると、長編映画よりははるかに長く、ドラマだとここまでで1クール11話くらいの長さとなる。トゥルーエンド到達・100%達成までは、攻略サイトを見ながらで約24時間を要した。特に後者は新しいストーリー分岐に達するまでの「作業」に時間を要し、正直オジさんにはちょっとしんどい感もあった。ただ、尺が長い分、話の前提となる設定や人間関係の描写に時間が掛けてあるのが悲劇の効果を高めていて、そこのところは非常に丁寧でリッチな感触を受けた。逆に言えば、映画やドラマに見られるような、内容にかかわらず枠に合わせなければならないという制約は、想像以上に話を貧しくするのだなあと思う。
  • とはいうものの、ギャルゲーというフォーマットに拘ったことによる別の意味での若干の制約も感じないではなかった。それはつまりマルチエンディングシステムに由来するものであって、まずフェイリスとルカ子のエンディングに至るルートは、それなりの良さは認めるものの、この話の本質にかかわるとは思えず、やはり不要であったと思う。そもそもエロゲーにおいては 女性人物を落とす=エロシーン→ステディな恋人同士に という基本構造が外せないためにマルチエンディングのフォーマットを厳守せざるを得ないわけであり、ギャルゲーである本作もそれを踏襲したものと思われるが、この作品の場合不要なルールである。したがってむやみに女性の数を増やす必要はない。またさらにいうなら、本当は紅莉栖とまゆりのエンディングも、トゥルーエンドに組み込まれているのだから、なくてもよかった。鈴羽のエンディングだけは独自の価値があるので捨てがたい。
  • 追記: 改めて考えてみると、悲劇としてはまゆりEDの方が「真のエンディング」なのかもしれない。アリストテレスいうところの「実行した場合」(『詩学』1454a)である。
  • シナリオについては後日更新。以下は取り急ぎ。
  • とにかく非常によく書けたアリストテレス的悲劇(メロドラマ的でもあるが…)である(劇中のセリフに一度だけ「アリストテレス」(ついでに「ホラーティウス」も)という言葉が出てくるが偶然ではあるまい)。葛藤・ミステリーの力で観客をひきつける力が強い。エートス(キャラクター)はラノベのパターン通りではあったが、上述のように描写に丁寧に時間を掛けているのであまり不自然に感じない。
  • ストーリーのネタ元についてだが、既に各所で指摘されているように、これはあきらかに「時をかける少女」である。本作の初版であるX-box 360版 の公表年が2009年、劇中でカギとなる日が13日、またタイムリープという用語も出て来ているが、なんといっても話のテーマが細田版そのまんまであり、いくら筆者が「何を観ても時をかける少女に見える病」という不治の病にかかっているとはいっても、これは無関係とは言えまい。またそのほか、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』トリロジーや『バタフライエフェクト』など、タイムトラベルものSF映画のアイデアもごった煮にしたようなプロットである。
  • トゥルーエンドの真のスタッフロールの後のエピローグは基本的に蛇足であるように思われた。(ネタバレを防ぐために曖昧な言い方になるが)『バタフライエフェクト』のラストに相当するシーンをワンカット程度含めてあれば十分だった。

88点/100点満点

『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』

 WOWOWにて鑑賞。

  • 2012年のお正月映画。正真正銘のアクション映画であり、プロットは各「アクト」で主人公たちが何をすればいいのかを最低限説明する機能しかない。この種の作品では葛藤はプロットでなくアクションシークエンスの中にあるので、それでいいわけである。
  • とはいうものの、核ミサイルが発射されたというのにまったく緊張感はないし、ラストもなんだか締まらないしで、モヤモヤしたものを感じないではいられない。

50点/100点満点

『オーシャンズ13』

 NHK BSPにて鑑賞。『オーシャンズ12』は確かまだ見たことがない……はず。

  • こういう都合のいいコンピュータが出てくる話が許される時代は20世紀までで終わっていると思うのだがなあ。
  • 13人もいるのはやっぱり多すぎて詰め込みすぎの感がぬぐえない。
  • とはいうものの、話運びは軽妙でそつのない作り。プロの仕事ではある。
  • 前田有一氏が「前半、練りに練った復讐アイデアを仲間と観客に披露し、後半それを実行するだけ。意外性のカケラもない。」と批判しているが、これは少し違う。いったん披露したうえで、その作戦が上手くいかなくなりそうな状況にもっていくことで葛藤を作るのが定番の作劇法である。ただ、今回の話では詰め込みすぎなのでそこも薄くなってしまったのである。

68点/100点満点

『キャリー』

 WOWOWにて鑑賞。

  • スティーヴン・キングの処女作が原作。『シンデレラ』と『白雪姫』(Snow White)が下敷きになっている節があり、別作品を下敷きにして物語を作るキングのスタイルはこの頃からなんだなあと思わせられる。また、「俺はキリスト教が嫌いだ(又は大好きだ)」シリーズ第一弾でもある。人間とは変わらないものである。
  • 本映画化作品についていえば、シナリオ的に大失敗作と言っていいと思う。おそらく原作より脚色の問題である。
  • 例えば、このシナリオだとキャリーは昔から同級生と母親にいじめられ続けていたように見えるし、超能力も昔から持っていたように見えるが、これだとおそらく本来の作者の意図であろう「いじめのために超能力が開発されていった」ことがうまく表現されない。そしてそれがうまく表現されないと、肝心要の「陰湿ないじめが悲劇を生んだ」という因果関係がうまく観客に理解されない。
  • もっとも、見ようによってはむしろ「姦淫の罪に近づいたことが悲劇を生んだ」と解釈できなくもない構成になっている。作者がキリスト教が大嫌いなのか大好きなのかよくわからないこのような構成は『ミスト』とも似ている。

20点/100点満点