映画短評」カテゴリーアーカイブ

『ゾンビ』(ダリオ・アルジェント監修版)

 WOWOWにて久しぶりに再鑑賞。

  • この作品にはいくつものバージョン違いがあり、今回WOWOWでは「ディレクターズ・カット版」(139分)と「ダリオ・アルジェント監修版」(119分)が放送された。ダイオ・アルジェントは、この作品に一部出資してヨーロッパでの興行権を獲得した映画監督で、「ダリオ・アルジェント監修版」はヨーロッパ公開版。
  • ふつうディレクターズ・カット版というのは、尺が長い分オリジナル公開版より作品をよりよく理解できるようになっているものだが、この作品においてはそれが逆で、ダリオ・アルジェント監修版と比較すると、ディレクターズ・カット版では、作品の理解に必要な重要なセリフがカットされる一方、本筋に関係ないような場面が追加されている。ロメロ監督自身、撮影完了からの時間的余裕がなくて粗編集しかできず、不満足な出来だったと言い訳しているようだ。したがって、ここではダリオ・アルジェント監修版が「正典」と考え、こちらでレビューする。
  • ロメロ監督のゾンビ第一作『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』もそうだったが、シナリオの出来という面でみると、人物の行動の動機が不自然不明確なのが大変気になる。まずそもそも、なぜヘリコプターでTV局から脱出したのかがわからない。TV局にはまだゾンビはいなかったのだから、とどまった方が安全ではなかったか。全国的にゾンビが出没していることはすでにわかっていたのに、どういう見込みをもってどこへ行こうとしたのだろうか。これがわからないので、なぜわざわざ給油施設のないショッピングセンターの屋上に着陸したのかもわからない。それがわからないので、ショッピングセンターに着いた後も、主人公たちが最終的に何をしたいのかもわからない。実際に彼らがショッピングセンターでしたことから逆算して考えると、どこでもいいからゾンビから逃れて暮らせる場所を探していたということかも知れないが、ショッピングセンター内にゾンビから逃れて暮らせる場所があることは着陸して初めて分かったことで、それまではむしろ市街地は危険だと言っていたのだし、現に駐車場にゾンビの姿が見えてもいた。それに、ショッピングセンターから出ることなくたった4人で社会から孤立して残りの人生を過ごすというのはちょっと無理がないだろうか。要するに、主人公たちにはあまりに計画がなさすぎるのである。
  • ただそうはいっても、ショッピングセンターに着いてからのゾンビとの手に汗握る攻防戦には見るべきものがある。動きが遅く愚かだが数の多いゾンビと、素早く動け銃を持ってはいるが数の少ない人間という配置の「ゲームバランス」が絶妙なのだろう。また、愚かな人物が仲間の足を引っ張り、最後には自滅していくというホラーで定番の人物配置を確立したのは、おそらくはこの作品が元祖ではなかろうか。
  • 改めて見直してみると、『エイリアン2』『ターミネーター2』あたりの初期のキャメロンのヒット作は、ほとんどこの作品の焼き直しと言ってもいいほどに似ている。もっとも、『エイリアン』は第一作からしてそうだったのだが。

『孤独のグルメ』(TVドラマ)第三話「豊島区池袋の汁なし担々麺」

  • 相変わらずピントが怪しいところはあるものの、脚本演出とも前回より明らかに手馴れてきている。
  • 今回は脇も含めて比較的自然な演技だった。
  • 追記: 今回は前回と演出者が別人だったらしい。
  • 五郎ってこんなにうまいうまい言ってたっけ、と思って原作をチェックしたところ、旧連載中、「うまい」を言わなかったのは高崎の焼きまんじゅうと江の島の江の島丼、神宮のカレー、そして板橋のハンバーグランチ(あと秋葉原では「上等上等」)くらいのもので、後はうまいうまい言いまくりだった。

70点/100点満点

『病院で死ぬということ』

 NHK BS2にて鑑賞。実に一昨年の7月に放送され録画したものをやっと観た。なお、DVDにはなっていないらしい。

  • 内容は題名通りで大変重いので、レンタルショップにあったとしてもなかなか手の出にくい作品だろう。そういう作品との接点を作ってくれるのはTV映画の一つの特長である。
  • 入院にまつわるディテールの密度が高く、演技もリアル志向。安心して見られる演出である。
  • ブロゴスフィアでは、患者が亡くなる直前の苦痛を映さない点や、ラストで解決原理として愛を持ち出している点について、きれいごと過ぎるという批判が多いようだ。前者の妥当性については正直よくわからないが、後者についてはやはり少々安易だったかも知れないと思う。

80点/100点満点

『孤独のグルメ』(TVドラマ)第二話「豊島区駒込の煮魚定食」

 TVドラマだけどこのカテゴリで。第一話は見逃した。

  • シナリオについては、期待していたよりもいい出来。店側に配慮して言いたいことの言えなくなった昨今の漫画版よりもずっと『孤独のグルメ』らしい話に仕上がっている。
  • あえて一点指摘すると、公園の素人将棋に誘われていくシークエンスでは、五郎が子供の頃から将棋好きであったということをもう少し早いタイミングで示した方がよかった。ふつうの人はああいう状況で見知らぬ老人たちのところに誘われていったりしない。
  • 松重豊の抑えた演技もよろしい。ただ、脇役たちの演技はコテコテで、それが対比効果によりますます気になってしまった。
  • 演出面ではほかにもいくつか気になったところがあった。まず、屋外のシーンで、ピントがきちんと五郎の顔に合っておらず、どちらかといえば背景の方に合っているところがあった。もし単にピントを合わせそこなっただけなら撮影技術上の問題に過ぎないが、背景に注目させるためにわざとこうしたとすれば演出上の問題である。ピントは観客が注目している部分に合わせるのであって、ピントを背景に合わせたから観客が背景に注目するのではない。背景に注目させたいならば、例えば次のようにしなければならない。
    1. 五郎歩いてくる。ピントは五郎の顔。
    2. 五郎、振り返って背景の看板を見る。ピント背景の看板に合う。
    3. 五郎、また前を向いて歩きだす。ピント五郎の顔に合う。
  • 二人の人物の会話のシーンで、一方の人物がなにかを話しているのをマスターショットで映しているとき、その相手が石化したように固まっているときがあった。シナリオになにも動作が書いていないからといって、こういう演技をしたのでは不自然である。演出者・演技者なりに何かさりげない動作を考えるか、それができないならカットを割ってフレームの外に出すか、何か工夫が必要である。
  • また、会話の「間」が長すぎると思われるところもあった。これが石化の違和感をさらに強くする。
  • 出てくるメニューはなかなか魅力的で、「観た後腹が減るドラマ」という目標はおおむね達成されているようにおもわれる。ただ、煮魚はあんまり汁が染みてるように見えなかったな。

60点/100点満点

『お葬式』

 NHK BSPにて久しぶりに再鑑賞。といってもノーカット版はこれが初めてかも。

  • 伊丹十三は橋本忍の師匠伊丹万作の息子だし、中身は自身の体験談だとはいえ、初脚本作品としてはずいぶんと安定感のあるシナリオ。視点が一貫しているのがいい。
  • ちなみに伊丹十三のクレジットは「脚本監督」。逆の「監督脚本」でクレジットしている連中のシナリオにロクなものはない。例外は山田洋次くらい。たいてい脚本に自信があれば脚本を先にするものである。
  • 概して人物があまり選択(一方を諦めてもう一方を取る)をしないので、やや無性格的な話になっている。いわゆるプロットポイントが存在しないと言い換えてもいいだろう。結末がやや弱いのも同じ理由からと思われる。
  • 葛藤が弱いわりにあまり退屈しないのは、やはり題材そのものが興味深いからか。
  • 茂みでの濡れ場は有名だが、この話にぜひとも必要だったかにはやや疑問の余地が残る。このシークエンスに結構長く尺を割いてるのでなおさら。
  • 陰の主役ニャン吉の存在感が凄い(笑)
  • やっぱり『サマーウォーズ』の侘助はここからとったのですかね。

80点/100点満点

『お引越し』

 NHK BSPにて鑑賞。

  • 前半はともかく、後半は……。まったく、これだから相米慎二はイヤなんだ。
  • とはいえ、あのロビーでの3者会談(?)で話を終わらせるわけにいかなかったのはわかる。でもねえ。

30点/100点満点

『サウンド・オブ・サイレンス』

 WOWOWにて鑑賞。

  • 原題は『Don’t Say A Word』なのに、なんでこんな変な邦題なんだろ。サイモンとガーファンクルの同名の曲とは何の関係もない。
  • シナリオの面から言うと、前半はまあまあだったが、全体としてはB級。
  • 致命的なのは、エリザベスが強盗団の残りの仲間たちに宝石を渡したいのか渡したくないのか気持ちがはっきりしないところ。役者のほうも、強盗団と会ったシーンではどんな顔をしていいのか困ったのではなかろうか。
  • また、物語は誰かの行為を賞賛するか非難するものでなければならないのに、誰を賞賛し誰を非難したいのかはっきりしない。まあ一応強盗団の仲間たちはラストでまるで付け足しのように悪い行為をしてああいう形になったけど、本来彼らは裏切られた立場だから、もしあのまま人質を返還していたら同情の余地があった。一方、コンラッド医師はコンラッド医師で、自分の利益のために患者を連れまわして強盗団に引き渡しているわけで、どうも手放しで賞賛に値する行為に見えない。
  • マイケル・ダグラスの演技はOK。

50点/100点満点