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『ゴールデンスランバー』

 WOWOWにて鑑賞。

  • まず初めに言っておきたいことは、ビートルズの楽曲の使用料が高いなら、そのお金が貯まってから製作すべきだということである。どうしてもその金が用意できないなら、その人にその作品を撮る資格はなかったということである。わざわざこういう作品を原作に選んでおきながらビートルズの音源は使えませんでしたというのは本来許されない話である。最近の邦画界はこのあたりの意識がルーズになっているようなので苦言を呈しておく。
  • この話を一言で言うと、かつての仲間たちとの絆に助けられる逃走劇なのだが、逃走劇としての部分はまずまずよくできているものの、絆を描く作品としてはどうも薄味である。そういう作品ならラストシーンがもっと印象深くなるはずなのだが、そうなってない。単に大学時代よくつるんでいたとか、付き合っていたとかというだけではあまり強い絆とは言えないからだろう。また、かつての仲間とは関係ない人々にも大いに助けられるのは一貫していない。特にあの通り魔は、少々都合がよすぎる存在である。
  • 回想シーンの使い方は上手いとは言えない。そもそも、なぜ回想という手法がしばしば退屈だと言われ避けられる傾向にあるかというと、そのとき観客が知りたいと思っていない情報を無理に与えようとするからである。回想を使いたいならここのところをうまく処理しなければならない。もっとも、過去に何があったかを現在の状態(の描写)で示すのが物語の本来のあり方で、そもそも回想は物語にとって必要不可欠な表現手段ではない。現実世界でわれわれが過去を理解するとき、「回想シーン」に頼ってはいないのである。
  • 最後、死体が上がったのはどういう経緯なのか? 本来なら撃たれた後の主人公の行動は観客に対して隠しておいて、ミステリアスに処理しなければならないのではないか。プロットが混乱しているように思われる。
  • 以上、苦言が多くなったものの、最近の邦画としては見れる方と言っていいだろう。

65点/100点満点

『ダークナイト ライジング』

 原題は『The Dark Knight Rises』だがなぜか邦題は上掲の通り。

  • 説明ゼリフが多すぎるし、結局何がいいたいのかもわからん。
  • ビギンズでの影の軍団云々の設定はその名の通りノーランの黒歴史として封印されたのかと思ったら、今作では全開バリバリじゃないですか。あーあ。原作がこうなってるのかなあ。
  • 最初と最後の30分だけでよかったんじゃないの、これ。
  • アン・ハサウェイは確かにセクシーだったが、いかんせん殺陣に迫力がない。

50点/100点満点

『ファーゴ』

 WOWOWにて鑑賞。

  • 全体的に間延びしたシナリオで1時間40分埋めるのに苦労している感じ。冒頭のクレジット通り実話ベースなら仕方ない面もあるが、実際にはそうではないらしいし、これがアカデミー脚本賞というのは過大評価ではないか。連続TVドラマあたりならこの程度でも許されるだろうけれど。
  • その割にそこそこ見れるのは役者とグロの力か。

65点/100点満点

『SUPER8/スーパーエイト』

 WOWOWにて鑑賞。

  • 2011年公開のティーンズ向け夏休み映画。人物配置はどことなく『グーニーズ』(1985)を思い起こさせる。
  • とにかくシナリオがとんでもなく素人くさい。素人のシナリオをハリウッドの一流のスタッフとキャストで映画化したらこうなったという感じの作品。
  • 設定を言葉だけで説明してきちんと描写していない。人物の動機付けがぞんざいである。人物の目標に共感できない。展開に意外性がない。物語の先行きに興味が持てない。結末にカタルシスがない。ないないづくしである。一方で開始20分でプロットポイントとか3幕構成とかといったどうでもいい原則だけはきっちり守っている。ティーンズ向けだからといってこんなのは許されない。
  • エンドロールの8ミリ映画だけはまあまあ。派手な画面づくりなんて面白さにあんまり関係ないということを図らずも本編ともども対比により証明した映画になった。

30点/100点満点

『孤独のグルメ』(TVドラマ)第10話「豊島区東長崎のしょうが焼目玉丼」

  • せっかく「頼んだものをポテトサラダまですべて食べきれるか」という葛藤を作ったのに、いきなりポテトサラダが出てきたらぶちこわしでしょう。最後に出てこないと。陳腐な例だけど、例えば五郎がその前に満腹になっちゃって、最後に出てきたポテトサラダはあの女の子たちに上げることにするとかいう結末にすべき。
  • 会計のシーンの驚き方は不自然。少なくとも個々のメニューが安いことは既に知っていたのだから。
  • 日芸って所沢だけかと思ってたら江古田にもあるんだね。

『孤独のグルメ』(TVドラマ)第8話「神奈川県川崎市八丁畷の一人焼肉」

  • うーん、五郎ちゃんBMWに買い替えたのかあ。ボルボの方がよかったんだけどなあ。
  • やはり川崎は個性の強い街だからか、町並みが絵になる。
  • 例によってシナリオについて。まず、あのアヴァンは意味がない。単なる繰り返しではないか。あまり無理に冒頭で料理を登場させようとしない方がいいようである。
  • あの店を選んだ経緯が説得力に欠ける。とにかく腹が減っていたという以上に大した理由がないのなら、原作がしているように、むしろいきなり焼き肉のシーンまで、それが行き過ぎなら少なくともメニューを開いているシーンまで、ジャンプさせた方がいい。
  • 料理を食べているシーンがシリーズ初めの頃と比べて長くなったように思われるが、それ自体はそれほど不自然ではないようである。ただ、一人であれだけ食べるというのは……五郎が大食いキャラというのが確立しているからいいが。
  • 演出について。まず入店のシーン、黄色い看板を目印に戻ってきたシーンなのだから、その看板をフレームから外してしまったのは明らかな演出ミスである。メニューを見ているシーンでメニューの中身を映さなかったのもよくなかった。
  • これはどちらかといえば脚本理論に属するけれども、物語やドラマは、体験談の形式を持っているから、直接には語り手の行動の理由と結果(の反復)を語っているのである。演出にあたってもこの原則に忠実であるべきである。後の語り手の行動や結果に影響を及ぼさない出来事は省略しなければならないし、影響を及ぼすものや、行動や結果そのものは必ず描写しなければならない。ただし、行動の理由となるもののうち、物語開始時点で語り手は既に知っていたが観客は知らなかったことと、語り手も観客も知らなかったこととでは語り方が異なるが、それはまた別の機会に。
  • ドラマの場合、カメラが手振れすると、そこにカメラマンがいることが否応なく意識されて興ざめである。
  • ロースターの中からのアングルは面白い。
  • 最近ピンボケが減ったようだ。というより明らかなものは全然ない。
  • 焼き肉そのものは旨そうだったが、ちょっと狭いかなあのカウンターは。
  • 五郎ちゃん、箸は分けた方がいいよ。

『白夜行』

 WOWOWにて鑑賞。

  • これもちょっと尺が長すぎる。あまりに話が進まないまま2時間観続けるのはつらい。ミステリだからその間犯人の推理をしておけということなのだろうが、それにしても2時間は長い。
  • また、登場人物が多い上に、時間が経過して成長した姿で出てきたりして、話についていくのもつらい。小説なら地の文に名前が出てくるし前に戻って読み返したりできるからいいが、映画だといろいろ難しい。
  • 話そのものは悪くないので、やはりもう少し尺を……
  • 堀北真希はやはり美人ですね。でも「人の心を操る手段」はもうちょっと具体的に表現して欲しかった。いまどきの日本人女優だとあれが限界か。
  • 一つ指摘しておきたいのだが、当時には3級という資格はなく、「電信級」だったはずである。また、電信級の試験に和文モールスはなかった。もっとも、集会所のOMたちがそれも併せて教え込んだ可能性はある。

70点/100点満点

『孤高のメス』

 WOWOWにて鑑賞。

  • この作品の制作者が誠実に素晴らしい映画を作ろうと努力したことを疑うものではないが、客観的に評価すれば、手術シーンを除き、あまり成功した作品とは言い難い。その意味では、2000年代以降における邦画界の実力の限界を象徴的に示す作品と言えなくもない。
  • まず脚本面での最大の問題は、葛藤がきちんと作れていないことである。だから手術シーン以外のところでは退屈で話が持たない。本来この話は、生体肝移植を成功させて市長を救うことができるかというところで観客を心配させる葛藤を作らなければならないはずなのだが、成功率は五分五分だと形だけ言いはするものの、具体的に何か不安な点が示されるわけでなく、却って当麻が凄腕外科医であることのみが示されているし、またライバル医師たちも手術そのものは妨害する意思を持っていないので、観客が手術が失敗すると心配する要素がほとんど何もない。
  • あるいはまた、当麻が殺人罪に問われるかどうかというところで葛藤を作るつもりなら、むしろ手術はあっさり終えてそのあとの裁判をメインにすべき。しかし実際には裁判どころか手術後刑事すら登場しなかった。ちなみに、殺人罪は親告罪ではないので逮捕に告訴不要なうえ(なお告訴権者はこのケースでは遺族だけだが、移植は母親からの依頼があってすることなので、告訴はほとんどありえない)、予備罪もあるので、手術前の時点で逮捕は可能だった。
  • またそもそも、観客から見て、殺人罪に問われるリスクを冒してまでも市長を助けるべきと思えるような事情がないので、観客が当麻の手術が成功してほしいと強く願うような展開になっていない。極端に言えば、当麻がやりたいから勝手にやってるだけという見方になる。
  • しかしなんといっても、尺が長すぎる。カットできるところが沢山あった。もっと縮めるべき。特にドナー提供者側の話は、制作者の側に思い入れはあったのかもしれないが、ざっくりカットすべきだと思う。一方、市長の娘の描写は薄すぎた。
  • 演出については、概して演技過剰の傾向があった。特に堤真一の演技は少々鼻に付いた。ただ概して女優の方が出来が良かったようである。五郎ちゃんこと松重豊もOK。
  • どうしても気になってしまったのは生瀬勝久のキャスティングである。もはやサラリーマンNEOのイメージが強すぎて、この人の出てくるシーンはコメディにしか見えない。キャスティングにあたっては当然、俳優についているイメージも検討に入れるべきであって、彼をシリアスな役に割り当てたのはミスキャストである。逆に言えば、変なイメージが付いて役者としての活動が制約されるのが嫌なら、無計画にバラエティ番組に出てはいけないのである。なお、柄本明のキャスティングが成功かどうかについてはどうもよくわからない。これでいいような気もするのだが、軽すぎる気もする。
  • 当麻のキャラクターについては、三谷幸喜の傑作TVドラマ『振り返れば奴がいる』の影響を強く受けていると感じた。ただ、このドラマ自体『ブラックジャック』や『白い巨塔』の強い影響を受けているので、どこから拝借してきたのかなんとも言えないところはある。
  • 手術シーンに見ごたえがあることだけは確かである。

60点/100点満点