『ひぐらしのなく頃に』(同人PCサウンドノベル・2002~2006)

 今回は映画ではないがこのカテゴリで。
 「ひぐらしのなく頃に 全部パック」ダウンロード販売版にてプレイ。

  • プレイ未経験の方は、まず無料の体験版(第一話が丸々収録されている)をプレイされることを強くお推めする。一つだけ助言させて頂くと、出だしは出来の悪い日常系アニメのように感じられるかも知れないが、それは綿流しの祭が終わるまでの話。そこからは話に強く引き付けられるようになるので、それまで辛抱して読み続けるべし。なお、今から有料版を購入されるなら、筆者の購入した全部パックの内容に2014年のコミックマーケットで発表の新作が追加された「ひぐらしのなく頃に 奉」のパッケージで購入された方がいいかも知れない。
  • 舞台は昭和58年6月、中部地方にある過疎の村、雛見沢。そこへ都会から越してきたばかりの中学生、前原圭一が主人公。彼は小学校中学校兼用の村の小さな分校へ通うことになり、クラスメートの竜宮レナ、園崎魅音、北条沙都子、古出梨花らとさっそく仲良くなる。放課後教室で彼女らと室内ゲームで遊んだり、ピクニックに出かけたりして、都会の慌ただしさとは無縁にのんびり楽しく過ごす毎日。
     そんなある日、圭一は偶然、村によく撮影に来ているというフリーカメラマン富竹ジロウに出会う。それをきっかけに、圭一は雛見沢に過去ダムの建設計画が持ち上がったことがあり、雛見沢がダムの底に沈むところだったが、村民が過激な反対運動を展開した末、それを中止に追い込んだこと、またその頃ダム建設の現場責任者が殺され、犯人がまだ捕まっていないこと、反対運動との関連が疑われていることを知る。平和そうな雛見沢に似つかわしくない過去に圭一は不安を感じる。
     6月19日が来て、村の神社、通称「オヤシロさま」で村の夏祭り「綿流し」が行われる。祭りは村人でいっぱいだ。そこへ連れ立って遊びに行く圭一とクラスメートたち。そこで圭一は偶然、富竹と再会する。一緒にいた富竹の恋人で、村の診療所の看護婦でありまた村の郷土史マニアでもある鷹野三四から、圭一は気味の悪い話を聞く。曰く、この村では最近4年間連続して綿流しの晩に村人1人が死に、別の村人1人が失踪する事件が起こっているのだという。1年目の死者は以前知ったダム建設の現場責任者であり、失踪者はその犯人と目されている作業員。その翌年以降の死者と失踪者たちはみな、過去のダム建設で反対運動に協力的でなかった村人たち。それぞれの死の原因は、殺人であったり自殺であったり病死であったりさまざまだが、とにかく特定はされており、警察では互いに関係がない事件と扱われている。だが、実は村には伝説があり、それによるとオヤシロさまを怒らせると祟りがあり、それを鎮めるには人間を生贄にささげる必要があるのだという。この生贄になることを雛見沢では鬼隠しという。村人たちは村人の死はダム建設に反対しなかったことによるオヤシロさまの祟りによるもの、また失踪者は鬼隠しに遭ったものと信じていて、今年も同じ事件が起こるのか、皆が恐れているのだという。
     翌日、圭一が例によって放課後クラスメートたちとゲームに興じていると、地元警察の刑事大石がやってくる。圭一は一人大石の車に乗せられその中で話を聞くことになる。大石曰く、富竹が昨日の晩、圭一らと別れた後、自ら喉を搔き毟って自殺していたのが見つかったという。また、一緒にいたはずの鷹野は行方不明。結局5年目も祟りと鬼隠しが実現したようにも見える。しかし大石は、祟りなどというものは信じない、村人の中にこの連続殺人・失踪事件の犯人がいるのではないか、特に圭一の仲良くしている魅音をはじめとするクラスメートたちが事件になんらかの関わりがあるのではないかと以前より疑っているといい、今年転入してきたばかりの圭一に、何か気づいたことがあったら情報提供して欲しいという。
     果たして5年続いた殺人・失踪事件は祟りなのか? それとも人間の仕業か? もし人間の仕業なら犯人は誰なのか? 喉を搔き毟って自殺するとは一体いかなる原因によるものか?
  • 2002年から2006年にかけて順次コミックマーケットで発表・販売されたPCゲーム。第一話にあたる「鬼隠し編」、第二話「綿流し編」、第三話「祟殺し編」、第四話「暇潰し編」、第五話「目明し編」、第六話「罪滅し編」、第七話「皆殺し編」、第八話「祭囃し編」及びエピローグ「賽殺し編」で構成されるサウンドノベル。プレイヤーが行動を選択するというアドベンチャーゲーム的要素はほぼ皆無、プレイといってもただ読むだけの純然たるサウンドノベルである。ただ、背景と立ち絵程度の絵は付いている。
     短めのエピローグを除く各話はそれぞれ7~10時間程度のプレイ時間を要し、テレビドラマシリーズならワンクール程度の内容に相当するボリューム。それらがオムニバスというのでなくちゃんと話が続いた形で8話分以上あるのだから、大長編である。
     話のジャンルとしては悲劇に属する。ミステリー(≒嘘つき探し)要素も濃厚で、実際ミステリーもののような売り出し方もされていたようだが、本当にそう呼んでいいかについては、ファンの間に異論もあるようである。
  • 同人ゲームながらアニメ化映画化などもされた有名作。しかも、オタクカルチャーでループものを流行らせた震源地となった作品とのことで、プレイしてみた次第。各話がそれぞれ1つの歴史(ループ)に相当している。冒頭に記したあらすじは大体各ループで共通する序盤部分である。
     この作品にはギャルゲーからの明らかな影響があり、各話にメインキャラクターが設定されている。メインプロットは、その身に共通して起こるあることが描写の中心となる。
  • このゲームに限って言えば、確かに「ループ=セーブポイントからの再スタート」という考え方によくなじむと思う。というのは、原則として以前のループの記憶が主人公に引き継がれないからである。ただそうすると、いくらループしても以前と同じことが繰り返されてしまいそうなところだが、この作品では外的環境が確率的に変化するというからくりでそれを回避している。あまりアドベンチャーゲームらしくない発想ではある。ただ結局、以前のループで悪かったところを修正しようとすれば以前の記憶がどうしても必要になるわけで、終盤においては結局各メンバーにわずかながら記憶が戻る、また(以下ネタバレ部分は反転させて読んでください)ある人物だけは記憶をほぼすべて引き継げる能力を持っているという折衷的な設定になっている。
  • 本作の元ネタと思しきものはいくつかあるが、中でも元祖ミステリサウンドノベル『かまいたちの夜』(1994)の影響が少なくないように感じられた。特に、同ゲームをプレイした者を例外なく茫然とさせたことで有名な「スキーストック死」ルートの影響が大きいように思われた。この作品についてはネタバレ宣言していないので詳しくは書かないが、要はこのルートだと主人公が誤解されて仲間に殺されるのである。この相互不信による仲間同士の殺し合いというアイデアが、本作品のストーリーの基本アイデアになっている。もっともこれは、古典的悲劇のパターン通りでもある。
  • とにかくシナリオのコンストラクションが神がかり的に素晴らしい。脚本家は、古典的・アリストテレス的な意味での悲劇の詩学(作劇法)をまれに見る正確さで理解して使いこなしているように感じられた。そしてまた世界観もしっかりある。そこだけとればほとんど理想的な出来で、こういうドラマを書ける人が日本にいたとは驚きである。もっともこういう神がかり的作品というのは、いくら才能があっても、しばしば一生に一本しか書けないものではあるが…

95点/100点満点