自宅のルータをIPv6対応のものに変更。IPoE/MAP-Eで接続し、ついにIPv6環境へ移行した。
各種OSでのIPv6のサポートが2000年ごろから始まってもう20年。実際にIPv6が使えるようになるのにこんなにかかるとは思わなかった。最後まで日本の有線インターネットの一般利用者のIPv6化を遅らせる原因となったのは、ブロードバンドルータが対応しなかったことである。主要ISPがIPoEの接続サービスを開始することになり、またIPoEは利用者側からの需要もありそうだということになって、どんくさい日本メーカーもやっと重い腰を上げたようだ。やっと体制が整ったのが2018年ごろらしい。もっとも、筆者の使っているOCNでIPoEが無料で使えるようになったのは今年の6月(それまでは有料オプション)。そういう意味では、プロバイダが本気になったのもつい最近と云えるかも知れない。
なぜIPoEが急に盛り上がっているかというと、これはよく宣伝されているように、フレッツ網のPPPoEの終端装置が容量不足になってしばしば輻輳しているところ、それを回避して回線を高速化する手段として使えるからである。フレッツのNGN網はIPv6ベースであり、IPoE/MAP-EはIPv6でIPv4パケットを伝送する技術なので、IPoEを使うと必然的にIPv6化することになるのだが、IPv6が使いたくてIPoEを導入する人は案外少ないかもしれない。
実際使ってみると、確かにある程度高速化の効果があるようだ。従来YouTubeなどは夜のゴールデンタイムだとHD画質では度々途切れていたのが、IPoEに換えてからはほとんどなくなった。一つ注意が必要なのは、ブロードバンドルータによっては、IPoEを使うとMSS clampが効かないものがあるらしいことで、jumbo frameを有効にしているPCに限って、PMTU Discovery Blackholeの問題がある一部サイトにつながらないというわかりにくい問題が発生することがある。当面の回避策はjumbo frameを無効にするしかない。
ここでIPoE関係の用語をまとめておくと、まずIP over Ethernet(IPoE)は、LANで使用するのと同じ方法で普通にIPを使うという意味合いの言葉である。LANで使うIPという本来の意味でのIPoEは一応RFC 894という短いRFCで規定されている(ちなみに、jumbo frameは厳密に云うとこのRFCに違反する)。しかし通常、このような普通のIPoEはわざわざIPoEとは言わない。IPoEという言葉が使われるのは大抵WANの文脈である。NGN網のIPoEも、基本的には普通の使い方でIPv6を使う。ただ、NGNでのIPoE接続には、回線に対して割り当てるIPv6アドレスを、NGN網からインターネットに接続する業者(VNE)からNTTが預かって配るとか、ユーザーからのパケットをVNEのルータに送るためにソースアドレスを用いたポリシールーティングを使うとかといった、特有の運用上のルールがあり、IPoEという言葉はそれらを併せて意味するものとして使われているようである。
IPv4をIPv6のIPoEに載せる技術をIPv4 over IPv6と総称し、これを使うとIPv4だけPPPoEを使うといったことなく、IPv6/v4両方に対応したWANをIPv6だけで構築できる。ユーザー宅内施設でプライベートIPv4アドレスを使用することを前提とした場合の具体的な技術としては、MAP-E、MAP-T、DS-Liteなどがある。MAPは、IPv6アドレスの中にIPv4アドレスが埋め込まれ、かつNAPT処理をユーザーのブロードバンドルータ側で行うのが特徴。また、NAPTで使用するグローバルIPv4アドレスは、1つをポート番号範囲(1つとは限らない)で分割して複数ユーザーで共用する。MAPのうちMAP-Eは、IPv4ヘッダをいじらずにIPv4パケット(データグラム)をそのまま丸々IPv6にカプセル化する方式。丸々載せるのでMTUは小さくなるが、IPv6区間のみでフラグメント化処理が完結するので、ユーザーから見たMTUは1500で変わらない。もっとも、IPv6ヘッダはIPv4ヘッダより大きいので、MAP-TでもMAP-EほどではないにしてもMTUが小さくなるのは同じである。
IPv6を使ってみて新鮮な感覚を受けるのが、DHCP相当機能が標準搭載なので、LAN内の機器に自動的にIPアドレスが配布されること(v6アドレスは長すぎるので手入力があまり現実的でない)、そしてそのアドレスがグローバルアドレスであることである。プライベートアドレスにどっぷりつかってきた今までの感覚からすると違和感もあるが、これが本来のIPネットワークなのだろう。もちろんセキュリティ確保のためフィルタの設定は必須であるが、一般消費者向けルータでは標準で設定されている。また、Windowsのデフォルトでは、MACアドレスベースで生成された伝統的なIPv6アドレスではなく、乱数で生成した一時アドレスが使用される。
Firefoxでアドオンを入れるとv6とv4のいずれで接続しているか表示できるのだが、それで見ていると、YouTubeなどGoogle系のサイトはv6で接続している。しかしそれ以外にはv6対応しているサイトはまだ少なく、あったとしてもCDNと思われるサーバーから画像などをダウンロードする部分だけがv6化されている程度である。AmazonやTwitterなど著名サイトもメインのサーバーはv6になっていない。また例によってどんくさい日本企業は、Yahooなど著名サイトも含めてまだまだv4のみのところが多い。もっとも、通信事業者はさすがにほぼv6対応しているが…。なお、高速化の恩恵はv4でもv6でも等しく受けられるはずである。
Googleの統計によると、日本からGoogleにIPv6でアクセスしている率は35%とのことである。モバイル網ではIPv6が早くから普及しているのが影響していると思われるため、有線インターネットでどうなのかはわからない。こちらには日本のフレッツ光ネクスト利用者のIPv6化率が74.5%という数字もあるが、これは実際に末端でIPv6を利用している(ブラウザなどのクライアントアプリがIPv6アドレスを使ってサーバーに接続している)率ではないものとみられる。また、NGN網に限って言うと、2019年末で過半数がIPoEを使用しているという資料もある。