映画短評」カテゴリーアーカイブ

『少年と自転車』(2011)

 WOWOWにて鑑賞。

  • 父親に見捨てられた少年シリルと、ひょんなことから里親となった女性サマンサとの交流を描いたヒューマンドラマ。
  • とにかく良くも悪くもヒューマンドラマらしいヒューマンドラマである。
  • ドラマの主人公にはある意味での立派さが必要である。そして確かにサマンサは立派である。しかし、サマンサがいかなる倫理的規範・信念に基づいてあれほどまでの献身ぶりを発揮したか、そしていかにその倫理的規範・信念が正しいかを示さないと、立派さがあまりに人間離れして嘘くさく見え、観客としては逆にその実感が持てなくなる。
  • 父親捜しの葛藤が比較的早い段階で解決した後、ドラマを駆動する力が弱まった感がある。
  • 結末のつけ方について。脚本家はシリルの犯した犯罪の方を気にしてその贖罪を描いて終わりにしているが、これはおかしい。シリルが贖罪すべきはサマンサに対してである。小山薫堂も番組の後枠で結末の違和感を指摘していたが、その原因はこのせい。
  • ただ、贖罪のさせ方自体は上手いアイデアだなと思った。

60点/100点満点

『パブリック・エネミーズ』(2009)

 NHK BSPにて鑑賞。

  • 1930年代の実在の銀行強盗を題材にした実録もの。「この物語は実話である」とのテロップを入れなかったことだけは褒めてもいい。
  • しかしそれ以外このシナリオはあまり褒められない。例によって、説明が後手後手に回り観客を突き放す語り口。こういう説明方法が許されるのは、既に語り手がその時点で知っていた情報であるところの物語の前提すなわち設定を説明する場合だけ。話が動き始めたら観客には語り手・主人公と同等の情報を与えておいて、彼と同じ立場だったらどう行動するかと考えられるようにしておかなければならない。この作品ではそれができていない。だから主人公(ってパーヴィスとデリンジャーのどっちなんだろう……そこもどっちつかず)が立派に見えないし、観客が話に乗れない。感傷的なはずのシーンで感傷に浸れない。スリリングなはずのシーンでハラハラできない。
  • 役者や演出は悪くない。

45点/100点満点

『太陽の帝国』(1987)

 WOWOWにて鑑賞。

  • 香港に生まれ育った英国人少年の目を通して綴った、香港への日本軍の進駐と彼の孤児としての収容所での生活の体験記。
  • 自伝的小説が原作で、ストーリーの細部にリアリティを感じるが、その代わりあまりまとまりのある話にはなっていない。葛藤やテーマやカタルシスや意外性といったドラマの定番の道具立てが不足していても、状況そのもの(とその画面)の物珍しさが確保されていればなんとか話が持つことを実証した作品。その意味でスピルバーグらしい。
  • 日本の軍人役で日本人が多数出演しているのだが、その芝居が大変な大根。日本語がわからない演出者が日本人の演技を演出するのが誤りであるのがはっきりわかる。ただ、伊武雅刀の演技はまずますだった。
  • 結局主人公の少年は日本と英米のどちらを選ぶのか(さらに言えばイギリスとアメリカのどちらを選ぶのか)という問題が最後まで混乱したままであった。このシナリオの最大にして致命的な問題である。

65点/100点満点

  • ところで、この放送では、前枠・後枠部分にWOWOWで制作したタレントたちの座談会のようなものを付加してあったのだが、その中身が低俗なバラエティのようでどうも今一つである。地上波のこの手の番組にうんざりしているからWOWOWを見ているという面があるわけで、これはWOWOWに求めているものと違う。
  • この手のものは見苦しくないものを作るのが見かけよりずっと難しい。タレントの類を出演させて成功している例をほとんど見たことがない。彼らは所詮うわべだけの盛り上がりを作ろうとするだけで視聴者の思っていることを代弁する能力はないし、視聴者に披露する価値ある知識にも乏しい。映画評論家という職業が存在するのは伊達ではないのである。

『シリアナ』

 WOWOWにて鑑賞。

  • 個々のシーンはよくできているので、観ていて退屈することはない。しかし話全体の流れが分かりづらい。おそらくもっとわかりやすくできたはずなのに、無用にわかりづらくなっているようで、腹の立つわかりづらさである。あまりにわかりづらいので、後で種明かしがあるのだろうと期待して続きを見たくなるのだが、最後までみても分かりづらいままである。
  • 「シリアナ」が国の名前だとわかった観客はどれほどいただろうか。
  • 複数の人物の筋をコロコロ切り替えるやり方、話のアラが見えづらくなるのでアメリカのTVドラマでは常套手段となっているが、観客にとっては話が分かりづらくなるだけで何もいいことがない。

30点/100点満点

『アーティスト』(2011)

 WOWOWにて鑑賞。

  • 21世紀に作られたモノクロサイレント映画。そういう意味で意欲作ではあり、それが認められてかアカデミー作品賞を受賞。でもそこまでの作品かというとやや疑問もあり。まあ作品賞はプロデューサーに対する賞だから、よくこの企画を通したという意味の賞賛であり、そういう意味では正しいのかも。
  • サイレント向けの大げさな演技がなかなか自然なのにも感心したが、なんといっても犬の名演技に恐れ入った。
  • ペピー役の女優はもう少し正統派の美女の方が……
  • 劇伴音楽の重要性を再認識させてくれる作品。私見では、劇伴は小説で言うところの地の文の代わりで、特に視点人物の感情を表現するのに重要な役割を果たす。
  • ノウハウなど伝わっていないだろうに、よくサイレントのシナリオを書いたなとは思うが、プロットについてはいろいろと問題もある。もっとも大きいところでは、ジョージがトーキーに出演しない理由に共感しにくいことと、ペピーがジョージを助ける理由に倫理的義務の裏付けがないことがある。例えば、ペピーがジョージを追い出すような形で彼の後釜としてスターになったというような事情があれば良かったのだが。実際のプロットだと時期が一致しただけなので、彼女に彼に対する(完全/不完全を問わず)義務が発生するとは言えない。

ベストシーン
やはりラストシーンだろうか。ただ、終わり方がぐずぐずしているのは頂けなかった。「喜んで」で即エンドロールが始まらなければダメ。

50点/100点満点

『ミニミニ大作戦』(2003)

 WOWOWにて鑑賞。

  • 有名な英国映画のハリウッドによるリメイク。
  • シナリオ面で問題あり。正しく葛藤を作れていない。観客がどちらの陣営にも肩入れできないで距離を置いて眺めるだけになっている。これは情報の出し方がおかしいから。説明が後手後手に回っているので、登場人物が決断する時点でその決断が正しいかどうかを観客が判断できない。情報の後出し全般が誤りというわけではないが、決断の時点までには観客が登場人物と同じ情報を持っていないとダメ。また同様の理由で、意外性にも乏しい。情報が少なくてそもそも予想が成立していなければ予想を裏切られようもない。
  • そもそも計画の内容が複雑すぎるのがいけないのかも知れない。屋敷から金庫を奪って逃げるくらいなら観客にも理解できたと思うのだが、あんな尺を使って折角説明しておきながらなんでヤメにしてしまったのか。都市の中を走り回るとなるともう細かいところは何が何だか。
  • 一応復讐劇の形をとっているわけだが、この話の経緯だと、娘はともかく仲間たちにそれをする倫理的義務がある(それをすると立派だ)と言えるか微妙なところである。こういう場合は本来、裏切りによる死を防げなかったことについてなんらかの原因を仲間たちが作ったと言えるような形にしておくのが良い。

ベストシーン
盛り上がりが今一つなので一つを選びにくいが、敢えて言えば冒頭の裏切りシーンだろうか?

40点/100点満点

『ヒッチコック』

 ロードショー終了間際の平日のシネコンとはいえ観客1人での鑑賞は初めて。

  • 『サイコ』製作の経緯を追った実話もの。主な葛藤は、自腹で製作することになった『サイコ』が無事ヒットするかどうかなのだが、まあこれはこの映画を観るくらいの人間なら皆結果がわかっているわけだからかなり弱い。そこで脇の筋としてヒッチコックの妻アルマが浮気する話を追加して二人の関係が破たんするかしないかの葛藤で話を持たせる形。ただ、破たんしたらどうなるのかというところはあまりはっきりしないので、これもあまり強い葛藤とはなっていない。
  • そんなわけで、劇中のセリフを借りれば「盛り上がりに欠ける」話ではあるが、そうは言っても、彼の私生活を垣間見ることができる内容で、ブロットや演出に大きなほころびもなく、ヒッチコックファンにはまずまず楽しめる作り。ヒッチコックを知らない人間が見たらどうかは保証しかねるが。
  • この作品にしても『サイコ』にしてもそうだが、実話を元にした物語は破綻しにくいという傾向が確かにあるように感じられる。「創作」などというが、やはり根も葉もないところから話を作るのは邪道なのかも。「これは実話である」と表示するシナリオに駄作が多いことと併せて興味深い事実。

ベストシーン
盛り上がりに欠けるので一つを選びにくいのだが……あえていえばやはりバスルームのセットでサクサクやってるところかな。

55点/100点満点

『ジャンゴ 繋がれざる者』

  • タランティーノの最新作。自由を得た黒人の元奴隷ジャンゴが離れ離れに売られていった妻を取り戻す話。『ジャッキー・ブラウン』以来久々の黒人(が主人公の)映画。
  • とにかく役者が素晴らしい。サミュエル・L・ジャクソンとクリストフ・ヴァルツの演技。これだけでも見に行く価値はある。
  • ただ、シナリオは……うーん、まあ合格点ではあるけど……どこか素人くさいような……。特にコンストラククションに違和感あり。演出面でも、それ自体としてみればよく撮れてるけどここでそういう撮り方をする必然性があるのかと疑問に感じるショットが多々あった。ようするに、場面偏重というか、全体が見れてない感じがする。

65点/100点満点

『駅 STATION』(1981)

 NHK BSPにて鑑賞。

  • 倉本聰脚本。高倉健主演。脇役も豪華キャスト揃いであり、日本映画全盛期の最後の残り火といった感のある作品。
  • 倉本聰の書くドラマは非常に独特で、どれも皆基本的に主人公の罪の懺悔をその内容としている。失敗(ハマルティア。ちなみに倉本聰は東大でギリシャ悲劇の同好会にいたそうである)が描かれるという意味では悲劇に似ているが、あくまで罪を告白するだけで、贖罪のためにそれ以上何かするわけではないのが特徴である。こういうドラマを書く脚本家はほかにあまりいないと思うが、敢えて言えば『秒速5センチメートル』などと似ていなくもない。本作でも主人公の男の、3人の女性に対する罪の意識が、半ばオムニバスのような構成で語られる。
  • 実際の人生では贖罪の機会などなく過ぎていくのがむしろ普通だから、このようなドラマはある意味でリアルであるとも言えるが、いわゆるドラマチックさに欠け、結末らしい結末を付けづらいという欠点もある(贖罪のための行為が語られるのならそれが済んだ時点が結末になるのだが……)。本作も話が終わったような終わっていないような曖昧なラストシーンとなっている。なお、『北の国から』のTVシリーズなども同様の問題を抱えていた。

ベストシーン

最後の酒場「桐子」でのシーン。対比効果がこれ以上ないくらいに強烈に効いていた。気まずいシーンを描かせたら倉本聰の右に出る者はない。

68点/100点満点

『ザ・シークレット・サービス』(1993)

 NHK BSPにて鑑賞。

  • クリントイーストウッド主演作(だが監督作ではない)。
  • 内容を一言で言えば大統領を警護するシークレットサービス版『ダーティー・ハリー』。良くも悪くもそれに尽きる。構成はウェルメイドとも言えるが新味や深みには欠ける。『ダーティー・ハリー』(1971)は当時革新的作品だったわけだが、本作は1993年の作品としてはおおむねB級作と言っていいと思う。
  • 大統領が暗殺されそうになるのだが、観客としては、どうも今一つ緊張感が感じられなかった。それにそもそもこの大統領陣営の人間は、選挙とカネのことばかり気にしてシークレットサービスからの警告にも反抗的なので、そういう人間を警護する行為自体もあまり立派に見えない。
  • 敢えて褒めるところを探すなら、悪役にも少しいいところがあるように作ってある性格造形だろうか。この悪役は主人公に優しいのである。ただ、そうであるにもかかわらず主人公が悪役にまったく妥協しないので、却ってなにやらその分主人公の印象が悪くなっている感があり、痛し痒しではある。

ベストシーン

  • 「振り返ったら俺に気がある」のシーン。何やらこの前見た『未成年』に似ているが、こっちの方が多少なりとも合理的である。

58点/100点満点