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『野武士のグルメ』

かの名作『孤独のグルメ』の原作者久住昌之さんのエッセイ集『野武士のグルメ』が発売になっていますが、これが大変いい本です。『孤独のグルメ』の巻末に収録されていた「釜石の石割桜 あとがきにかえて」のような身近な料理屋にまつわる短編エッセイを集めたもので、あの久住節が相変わらず冴えてます。「釜石の石割桜」が好きだった人ならきっと楽しめることでしょう。

その「釜石の石割桜」自体も一応この本の巻頭に収録されています。『孤独のグルメ 【新装版】』ではどうしたことか削除されていたので、これは最近の読者の方々にはよかったと思います。ただ、実は今回収録されたバージョンでは内容が大幅に改訂されているのです。個人的には元のバージョンの方がよかったかなと思わないでもないのですが…

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[tmkm-amazon]459405644X[/tmkm-amazon]この新装版には「釜石の石割桜」の収録はなし。その代わり1話分の新作書き下ろし収録。

[tmkm-amazon]459402856X[/tmkm-amazon]未確認ながらこの文庫版の方には「釜石の石割桜」収録との由。新作の収録なし。

コミックチャージが休刊になったので、創刊から休刊までの印象を語ってみる(他の隔週青年誌についても少々)

あくまで偏見で選んだと断ってあるのではありますが、え、これが主力? …とつい思ってしまったので、この機会に私が読んでいる雑誌について、いくつか作品を挙げてみました。

漫画アクション

  1. うちの妻ってどうでしょう?
  2. 大阪ハムレット
  3. この世界の片隅に
  4. BARレモン・ハート
  5. センセイの鞄

世間的には『鈴木先生』『極道めし』なんかも主力ですかね。あまり真面目に読んでませんが。

『真・異種格闘大戦』をWebのみにしたのは成功だったかどうか。

ビッグコミックスペリオール

  1. 医龍
  2. AZUMI
  3. ラーメン発見伝
  4. 味いちもんめ

こう並べてみると、スペリオールも最近ラインナップの層が薄いですね。

ビッグコミック

  1. ゴルゴ13
  2. 総務部総務課山口六平太
  3. 築地魚河岸三代目

…だけ。改めて見たらこりゃひどいな。しかも、前にも書きましたけど、この3作の中身も最近マズいんですよ。

もう少しだけ様子を見て…改善が見られないようなら買うのやめるか。

ビッグコミックオリジナル

  1. 釣りバカ日誌
  2. 黄昏流星群
  3. 風の大地
  4. Dr.コトー診療所
  5. 弁護士のくず
  6. 深夜食堂

ここで挙げた中ではもっとも充実したラインナップ。個人的にはまったく認めてませんが、世間的には『PLUTO』『三丁目の夕日』あたりも主力なんでしょうし。『あぶさん』『浮浪雲』あたりの立ち位置は正直謎です。

マンガ短評

「ビッグコミック」2009.1.10号

  • かむろば村へ』の連載が終了した上に、今号では『ゴルゴ13』『総務部総務課山口六平太』『築地魚河岸三代目』の長期連載三本柱が揃って不振。かなりの危機的状況で、早急なテコ入れが必要と思われ。
山本治作『そばもん』
  • ファミレスで知らない人同士が知り合うというのはやや不自然で、理解しにくい。
  • ファミレスという業態の内情からして、味を盗むとか盗まないとかという今回の展開は不自然。
阿部潤作『じいじい』
  • 最近流行の子育てモノ…の斜め上を行く感じ?
  • 絵が結構可愛く描けてるので、悪くはないんじゃないでしょうか。

「ビックコミックスペリオール」2009.1.9号

小山ゆう作『AZUMI』
  • なんだか紛らわしい題名。
  • 現段階では、駿介とあずみのどちらが語り手なのかちょっとよくわからない。視点がフラつくとあまりロクなことになりそうもないが…しかしまあ、ベテランの小山ゆうですから。様子を見ましょう。
森田崇漫画・北原雅紀脚本『ジキルとハイドと裁判員』
  • あれれ? 急にリアル路線に転換したぞ。
  • 12人の優しい日本人』を思い出すが、一人一人の人物描写は遙かに及ばない。
倉科遼原作・玉置一平作画『空を泳ぐ女』
  • ここまで3回分を読んでの感想。仕事か結婚かという問題設定は身近で分かり易く、その意味では悪くなかったが、客観的に見れば、どちらに転んでもそう深刻な事態には陥りそうもないので、物語に切実さが不足したかも知れない。
  • 主人公の言っていることが妙に青臭く聞こえる。これは、主人公の動機に関する描写が不足していることを意味する。例えば、難民の子どもたち(だっけ?)がかわいそうだというのを、結論だけセリフで説明して終わりではなく、読者にも感じさせないとダメ。

マンガ短評

「漫画アクション」2009年1月6日号

押見修三作『漂流ネットカフェ』
  • 『漂流教室』に似すぎていて正直如何なものかと思う。
川上弘美原作・谷口ジロー作画『センセイの鞄』「キノコ狩」
  • 現時点では『孤独のグルメ』後継作の最右翼。悪くない。
福満しげゆき作『うちの妻ってどうでしょう?』
  • 相変わらず可愛らしい奥様ですね。
森下裕美作『大阪ハムレット』「あいの探偵」
  • 前後編を通して読んでの感想だが、今回は視点のブレもなく完成度の高い出来。
  • あいの探偵を愛すべきキャラクターとしてきちんと描けたことが最大の勝因。
  • 欲を言えば、アリサと母親との対立構造を用いて、もっと話を盛り上げられたのではないかとも思われるが、短編という縛りの中ではこんなものか。
ドストエフスキー原作・落合尚之作『罪と罰』
  • 原作通りの展開なのだけれど、現代日本で検事が警察署に来て何かするというのはちょっと変では。
  • この人の描くキャラクターの演技はちょっとケレン味が強すぎる。もっと自然に。
はたのさとし作『セカイがもえた日』
  • もう少し分かり易く願います。

「ビッグコミック スペリオール」2009年1月1日号

森田崇漫画・北原雅紀脚本『ジキルとハイドと裁判員』
  • 訊かれもしないのに親切に設定を説明してくれる不自然な説明セリフが多い。説明も一つの行動なので、一応の動機・必然性は必要。…いや、それよりも、読者が求めていない情報を押しつけるのがつまらない説明ゼリフになる最大の原因か。
  • 定石だと、こういう話の場合は、本題に入る前に、「トントン」(パンダの名前みたいだな)が真実を述べる存在なのだということを説明し印象づけるためのエピソードが先行するのが普通。これを導入部と言う。本作のように「必要になった時点で」設定を導入するというやり方だと、作者の都合がミエミエになってしまう。
  • 青年誌なのだから、ハイドや「トントン」たちの設定にもう少しリアリティを感じさせる工夫が欲しい。外見も含めて。
  • 誤判をすると具体的に主人公がどう困るのかがきちんと描写されていないので、読者は誤判がまずいと理屈ではわかっていても、どうも気分的に今ひとつ盛り上がらない。そのわりに主人公は熱く悩むので、読者は置いてけぼりを喰ったような気になる。その辺をちゃんと描写するか、それともここは一旦そのまま有罪判決を出させてから、悲惨な被告人の姿を描写して改心させるか。何か工夫が必要。
  • 脇役のキャラクターの性格がきわめてステロタイプ的で、ありふれた行動しかしていない。
  • そのことも関係しているのだろうが、この人のキャラクターの演技も芝居がかり過ぎている。
  • なんだかボロクソにけなす形になってしまったが、まあ、まだ第1回なので。。。

『大阪ハムレット』

「アクション」2008/11/18号掲載分の森下裕美作『大阪ハムレット』第14回「テレパシー」、結構いい出来でしたが、視点(語り手)がフラフラしすぎではないでしょうか。一般論としては、別に視点を一人に固定しないと物語が成り立たないというわけでもないのではありますが、この話の内容では社長の視点に固定して話を進めていった方がよかったと思うのですが。その問題が顕著に表れているのが前編の最後で、ここは読者が社長と一緒にゾッとしないといけないところですが、物語冒頭が妻の視点で語られていて、妻があきらめの境地にあることが明らかになってしまっているために、そのようになっていません。

『かむろば村へ』

かむろば村へ』(いがらしみきお作)がついに完結しましたが、みなさんの感想はどうだったでしょうか。

私の感想を言えば、あの終わり方はちょっと不満ですね。カタルシスがないというか、メインプロットだったはずの「金恐怖症でもこの主人公は自立して生活していけるか」という点にはっきりケリがついた感じがしませんので。「なんとかなる」では物語の結末としては中途半端すぎないでしょうか。選挙やホームレスの話も、メインプロットにどう関わらせるつもりだったのか、わかりそうでわかりません。

ヤンダはよつばの兄

8巻でヤンダ(安田)が「よつばの兄みたいなもんで」と自己紹介してましたけど、なるほどと思いましたね。位置づけとしてはヤンダはよつばの兄なんだ。

そうすると姉は誰なんでしょう。順当には恵那でしょうけれど、あんな良く出来た姉は現実にはそうそういないんじゃないかと。兄弟げんかの一つもしてこその姉妹、恵那は姉らしくない感じがします。かといって風香は母親っぽいし、あさぎはさらに年が離れすぎだし(ヤンダも同じくらいですな)

『よつばと!』

『よつばと!』は子供の可愛らしさに作品の面白みの根拠を置くという意味で広義の萌え系作品と言えるのではないかと思うけれども、しかし世間一般で言われるところの(狭義の)「萌え系」作品とは違いがある。

狭義の「萌え系」作品は、一応オトナと言えなくもないくらいの年齢(典型的には女子高生くらい)の女性に子供らしさを付加することで、一人のキャラクターに子供の可愛らしさと女性としての(広義の)性的な魅力を重畳的に持たせることを特徴としている。このような「萌えキャラ」は、オトナでありながら子供のような振る舞いをする一種の奇形的キャラクターであり、一般ウケは悪い。そういうものを一種の「様式」として(伝統芸能のように)受け入れられるマニアにしかウケないジャンルになる。

一方、『よつばと!』は、子供の可愛らしさは子供のキャラクターが、女性の性的な魅力はオトナのキャラクターがそれぞれ別々に引き受けるというキャラクターの分離・分割を特徴とする。この構造ならば萌えキャラより現実味のある(ある意味「正常な」)キャラクターだけで話を組み立てていける。したがって一般ウケする。

しかし逆に言うと違いはそれだけだから、萌え系も『よつばと!』も潜在的ないかがわしさは同じようなもんなんじゃないか。

マンガ短評

「ビッグコミックスペリオール」2008/10/24号

小山ゆう作『あずみ』
甲斐編完結。正直いって話がやや複雑に過ぎ、最後の方はついていけてなかった。
乃木坂太郎作『医龍』
朝田が転んでからの新展開では、キャラクター間の対立関係が曖昧になったため、ドラマ性が弱くなってしまっている。
柿崎正澄作『感染列島』
読者を物語に乗せ切れてないのに劇中の人物はむやみと熱いので、ますます興が冷めていく悪循環。
星里もちる作『光速シスター』
久しぶりの連載再開。ちなみに、大変不思議なことながら、検索語「光速シスター」でのGoogle検索以前の記事がなんと2番目。
久部緑郎作・河合単画『ラーメン発見伝』
葉月妹、姉抜きの単独だとちょっとキャラ薄いかな?
こやす珠世画『相棒』
コテコテのTVドラマ的展開。それにしても、「原作・TVドラマ[相棒]」の表記は脚本家に失礼。きちんと個人名を記すべき。これは『感染列島』も同様。
ロドリゲス井之介作『世界の中心でくだをまく[仮]』
このマンガは武論尊が出てくると面白くなるね。

Re: コレが「絵の上手い漫画家ランキング」の完全版です。

コレが「絵の上手い漫画家ランキング」の完全版です。 (SUKEBENINGENSUKEBENINGEN)

この前IKKIを読んだときに『海獣の子供』が載ってたので、この中では五十嵐大介の絵だけは見たことがあることになりますが、正直あの絵は見づらかったですね。絵だけ見れば上手いっちゃー上手いのかも知れないということになりますけど、マンガに適した絵とはあまり思われません。マンガのコマの中の絵は、ストーリーを理解するために次へ次へと読み進めていくものなので、機能面ではむしろ図に近いもので、純粋な絵とは評価軸が異なってくるものなのだろうと思います。

それとこれは絵とは関係ありませんけど、コマ運びにはやっぱり改善の余地があるなと思いました。8/9のエントリで、『さらい屋五葉』とコレとどっちを例として取り上げようか迷ったくらいですよ。

それともう一つ、これは創作の批評では分野を問わず問題になることですけど、純粋な受け手、消費者から見て作品がすごい、面白いという評価軸に加えて、作り手から見てすごい、こういうのはなかなか作れない、ということを評価軸として認めるのかどうかがここでの評価の大きな分かれ目になると思うわけです。

認めても認めなくてもいいんですが、いずれにせよそれは単なるドグマを超えないものでありまして、反対の立場を否定することはできないしすべきでないかなあと思います。