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『お葬式』

 NHK BSPにて久しぶりに再鑑賞。といってもノーカット版はこれが初めてかも。

  • 伊丹十三は橋本忍の師匠伊丹万作の息子だし、中身は自身の体験談だとはいえ、初脚本作品としてはずいぶんと安定感のあるシナリオ。視点が一貫しているのがいい。
  • ちなみに伊丹十三のクレジットは「脚本監督」。逆の「監督脚本」でクレジットしている連中のシナリオにロクなものはない。例外は山田洋次くらい。たいてい脚本に自信があれば脚本を先にするものである。
  • 概して人物があまり選択(一方を諦めてもう一方を取る)をしないので、やや無性格的な話になっている。いわゆるプロットポイントが存在しないと言い換えてもいいだろう。結末がやや弱いのも同じ理由からと思われる。
  • 葛藤が弱いわりにあまり退屈しないのは、やはり題材そのものが興味深いからか。
  • 茂みでの濡れ場は有名だが、この話にぜひとも必要だったかにはやや疑問の余地が残る。このシークエンスに結構長く尺を割いてるのでなおさら。
  • 陰の主役ニャン吉の存在感が凄い(笑)
  • やっぱり『サマーウォーズ』の侘助はここからとったのですかね。

80点/100点満点

『お引越し』

 NHK BSPにて鑑賞。

  • 前半はともかく、後半は……。まったく、これだから相米慎二はイヤなんだ。
  • とはいえ、あのロビーでの3者会談(?)で話を終わらせるわけにいかなかったのはわかる。でもねえ。

30点/100点満点

『サウンド・オブ・サイレンス』

 WOWOWにて鑑賞。

  • 原題は『Don’t Say A Word』なのに、なんでこんな変な邦題なんだろ。サイモンとガーファンクルの同名の曲とは何の関係もない。
  • シナリオの面から言うと、前半はまあまあだったが、全体としてはB級。
  • 致命的なのは、エリザベスが強盗団の残りの仲間たちに宝石を渡したいのか渡したくないのか気持ちがはっきりしないところ。役者のほうも、強盗団と会ったシーンではどんな顔をしていいのか困ったのではなかろうか。
  • また、物語は誰かの行為を賞賛するか非難するものでなければならないのに、誰を賞賛し誰を非難したいのかはっきりしない。まあ一応強盗団の仲間たちはラストでまるで付け足しのように悪い行為をしてああいう形になったけど、本来彼らは裏切られた立場だから、もしあのまま人質を返還していたら同情の余地があった。一方、コンラッド医師はコンラッド医師で、自分の利益のために患者を連れまわして強盗団に引き渡しているわけで、どうも手放しで賞賛に値する行為に見えない。
  • マイケル・ダグラスの演技はOK。

50点/100点満点

『ベッジ・パードン』(演劇・三谷幸喜作)

 WOWOWにて鑑賞。映画ではないけどこのカテゴリで。

  • 夏目漱石のイギリス留学時代を題材にした話。三谷幸喜が初めて正面からラブ・ストーリーに取り組んだ作品という触れ込みだが、実際にはラブコメディといったところ。もっとも、結末で分類するなら、何かが犠牲になることで別の何かを得るという終わり方だから、悲劇に近い悲喜劇(という用語の定義ははっきりしないのではあるが……)である。
  • 脚本面では、細かい部分で三谷幸喜らしいベテランの技術を感じさせる出来ではあるが、葛藤が弱いため特に中盤が退屈。コメディ部分は面白いのだが、それだけでは話が持たない。もっとも、アナグノーリシス後の展開はスピーディーだった。
  • また、人物の動機やドラマのテーゼを言葉だけで説明して終わりにしてしまっている傾向あり。劇中のセリフのように大事なことは言葉にして伝える必要があるという考えかも知れないが、ドラマである以上それだけではダメ。
  • ベッジのキャラクターは、演出の面でも脚本の面でもやや魅力が足りなかった。せっかく深津絵里を起用したのにちょっともったいない使い方である。ラブ・ストーリーとしては不満の残る出来。
  • 野村萬斎と浅野和之の演技は期待以上。大泉洋は、コメディシーンでは光るがシリアスシーンでは今一つか。

60点/100点満点

『ディア・ドクター』

 WOWOWにて8月に放送されて録画しといた分を今頃になって鑑賞。ああ、この頃のWOWOWは良かった……

  • ボソボソしゃべっててセリフがよく聞き取れない。
  • 話の前半、説明ゼリフが多すぎる。
  • すでに観客がわかっていることをわざわざなぞるような無意味なシーンがあった。
  • ニセ医者であることを観客に疑問に思わせつつも最後まで隠しておくつもりなのか、それとも早めに明かして伊野がどう事態を切り抜けるのかという話にするつもりなのかの方針がふらついている。もし最後まで隠すつもりなら気胸のシークエンスなどはいかにも中途半端。医者にも難しい手技だというなら伊野がニセ医者であると観客に疑わせるエピソードとして成立しない。
  • ただ、この話は実話をベースにしているわけだから、観客の中にはニセ医者の話だと分かって見ている人がいる可能性が高いと考えるべきで、最初からそのことを明かすやり方の方が良い。でも実際の作品ではそれが判明するのが遅かった。仮にこの方針だったとしても気胸のシークエンスはおかしくて、相馬がそばにいたんだから彼にやらせればいいはず。
  • 結末も結局何が言いたいのかわからない。伊野を告発したいのか、賞賛したいのか。こうなる原因はいろいろあるが、直接には、語り手である相馬の態度が結末においてあいまいなのが最大の原因。ただ根本的には、作者の側で結論を用意できず、曖昧な雰囲気で判断を観客に押し付けて逃げた感じ。
  • そもそもこの話はニセ医者の話なのか、それともガン告知の話なのか、焦点が混乱しているように思われる。

50点/100点満点

『[リミット]』【ネタバレ】

 WOWOWにて鑑賞。

 邦題の『[リミット]』は意味不明だが、原題は『Buried』で、棺に入れられて生き埋めにされた男の話。
 とにかく大変意欲的にして大変低予算な作品である。約1時間30分の全編を通して棺の中のワンシーンのみ(ワンカットではない)。棺に入る前も出た後もない。しかも明かりがない状況だと画面は真っ暗。
 ワンシーンワンカットで有名な(といっても、正確には2シーンある)ヒッチコックの『ロープ』なんかはいかにも演劇的という感じだったが、こちらはカット割りが細かくされているし、棺の中の狭さもよく伝わってきて、そんな風に感じさせない。
 出演者も姿が映るのは1人のみ。彼自身は演技も達者で名も売れているらしいが、それにしても大した予算が必要とは思われず、しかもこれで結構ヒットしたのだから、プロデューサーにとっては夢のような作品だろう。

 ただ、やはりそれだけで長編映画の1時間30分の尺を埋めるのにはやはり多少無理があったようで、これはちょっとあり得ないんじゃないかという展開も散見された。特に意味もなくヘビが出てくるのには思わず苦笑した人が多かっただろう。だいたいズボンの中にいたらすぐ気付くって。あのアイテム袋みたいなものも初めに気付かないとは思えないなあ。
 また、人物の人間関係がよくわからないまま話が進むのも頂けない。あのムービーに出てきた女性はなんだったのか、最後までよくわからなかったし、そのために人事部長の言い分も正しいのか正しくないのかも不明なままだった。いやそもそも、人質に取られた社員のために身代金を払う義務などというものはもともと法的な義務としては存在しないのであって、あわてて解雇する必要があったのか自体が疑わしい。世間的な評判を気にしたということなら、理由はどうあれ誘拐当日に解雇したりすればそれ自体が社会から非難されてしまう。
 しかしこの作品のストーリーの最大の問題点はやはり結末だろう。悲劇的な結末であること自体は問題でない、というより、この話はアメリカがイラクでしたことを非難しようとするものなのだから、結末がハッピーエンドだったらむしろまずい。しかし、物語が棺桶の中で生き埋めにされたという状況から始まった以上、単にやっぱり生き埋めにされるしかありませんでしたというのでは期待外れである。それではこの話の冒頭10分だけ見て残りを見なくても同じことになってしまい、何のために1時間20分を費やしたのかわからなくなる。やはり、棺桶からは出られたけれども、家族が惨殺されてしまったとかというようにすべきである。
 言い換えれば、物語においては、その中にその後の出来事と因果関係を持たないような事実が存在してはならないのである。犯人との電話交渉にしろ、会社や妻との連絡にしろ、FBIだかCIAだかの救出作戦にしろ、それらがあってもなくても生き埋めになるという結果は起こったのだから、それらは結果と因果関係を持たないことになる。したがって、生き埋めになるという結果を維持したいならば、それらはすべて物語から除去しなければならなかったはずのものである。
 また、さらにいうならば、語り手として観客に過去の経験を報告している人物であるはずの主人公が死ぬというのは、厳密に言えば矛盾してもいる。どうしても死者の体験を報告させたいならば、本人から生前に話を聞いた人物を別途用意して、その人を語り手とするのがよい。

 それらの点を考慮してストーリーは1点減点。それでも、棺桶の中だけで1時間30分持たせた腕は大したものではある。

75点/100点満点

『特攻野郎Aチーム THE MOVIE』(吹き替え版)

 WOWOWにて鑑賞。

  • この作品のテーゼは単純明快、「CIAは悪い奴だ」。イラク絡みで(現実の)CIAの秘密収容所で拷問がされたりしてたあたりから来たイメージだろう。
  • 悪役の側の動機に説得力がなく、ほとんどすべてが悪い性格のせいにされるところはいかにも典型的な娯楽ヒーローものだが、娯楽作らしく葛藤がきっちり作れてるので、なんかアホらしいと思いつつも楽しめる。
  • アバンタイトル(最初のエピソード)で、各キャラクターの性格をざっと描写していたのは、TVシリーズを見たことがない人にも楽しめるようにしようという配慮からだろうし、それは必要なことでもあろうけれども、ちょっと駆け足過ぎて中途半端だった感もある。
  • 俳優がTV版と変わってるのは役者の年齢的に仕方ないとしても(主役なんかもう亡くなってるし)、吹き替えの声優はそのままにして欲しかったなあ。でも羽佐間さんももう77歳なんだね。
  • バラカス軍曹が非暴力主義になる下りはあんまり意味がなかった。そういうことにするなら最後まで非暴力で物事を解決するのでないと。都合よく主義を放棄したのでは性格の一貫則に反するし、カセにならない。

70点/100点満点

『キック・アス』【ネタバレ】

 WOWOWにて鑑賞。

  • この話はどう見てもシナリオの構成がおかしい。大手映画会社に持ち込んだら修正を要求された(のでそれを拒否して自主製作した)とのことだが、大手映画会社の判断の方が正しそうである。
    • この話は誰が主人公なのか、つまり誰の最終的な決断の理由を説明したものなのか明らかでない。キックアスのそれでないことは明らかである。彼が最後にしたことは、指示された通りにヒット・ガールを助けたというだけのことなのだから。そこで物語構造上は、どちらかといえばヒット・ガールが主人公に近いと考えられるが、その割にビッグ・ダディとヒットガールの動機の描写が薄すぎる。要するに、キックアスが語り手になっている意味がない。そのために視点もふらついている。
    • そのこととおそらく関連しているが、ところどころで人物の動機についての前振りが不十分なところが見られた。
    • キックアスがマフィアとは関係ないとあっさりと判明してしまうが、それなら何のためにキックアスが誤解されるという要素を入れたのかわからない。一般論として、後に続く人物の決断と因果関係を持たない要素を物語に入れてはいけない。たとえそのようなことが物語世界中で起こっていたとしても、そこは省略しなければならない。
    • ヒットガールたちが必ずしも必要でない殺人を犯しているのに、最後までそれを償わずに幸福になっているため、そのような殺人を推奨・賞賛する意味が発生してしまい、倫理的な問題がある。
    • コメディがやりたいのかシリアスなヒーローものがやりたいのか焦点が定まってない。
    • シリアスがやりたかったと解釈した場合、本当に言いたいことは最初の30分ですべて言い切ってしまって、残りの1時間30分は埋め草に別の話を付けたしたという感が否めない。本来は、この最初の30分はラスト30分に回して、なぜキックアスが誕生したかを説明する物語とすべきであったように思われる。
  • 『Mr.インクレディブル』の強い影響を感じる(少年の側から描写した『Mr.インクレディブル』と言ってもそれほど違和感がない)が、『キック・アス』の原作コミックとどちらの公表が先だったのか興味がある。

55点/100点満点