映画短評」カテゴリーアーカイブ

『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』

 WOWOWにて鑑賞。

  • 2012年のお正月映画。正真正銘のアクション映画であり、プロットは各「アクト」で主人公たちが何をすればいいのかを最低限説明する機能しかない。この種の作品では葛藤はプロットでなくアクションシークエンスの中にあるので、それでいいわけである。
  • とはいうものの、核ミサイルが発射されたというのにまったく緊張感はないし、ラストもなんだか締まらないしで、モヤモヤしたものを感じないではいられない。

50点/100点満点

『オーシャンズ13』

 NHK BSPにて鑑賞。『オーシャンズ12』は確かまだ見たことがない……はず。

  • こういう都合のいいコンピュータが出てくる話が許される時代は20世紀までで終わっていると思うのだがなあ。
  • 13人もいるのはやっぱり多すぎて詰め込みすぎの感がぬぐえない。
  • とはいうものの、話運びは軽妙でそつのない作り。プロの仕事ではある。
  • 前田有一氏が「前半、練りに練った復讐アイデアを仲間と観客に披露し、後半それを実行するだけ。意外性のカケラもない。」と批判しているが、これは少し違う。いったん披露したうえで、その作戦が上手くいかなくなりそうな状況にもっていくことで葛藤を作るのが定番の作劇法である。ただ、今回の話では詰め込みすぎなのでそこも薄くなってしまったのである。

68点/100点満点

『キャリー』

 WOWOWにて鑑賞。

  • スティーヴン・キングの処女作が原作。『シンデレラ』と『白雪姫』(Snow White)が下敷きになっている節があり、別作品を下敷きにして物語を作るキングのスタイルはこの頃からなんだなあと思わせられる。また、「俺はキリスト教が嫌いだ(又は大好きだ)」シリーズ第一弾でもある。人間とは変わらないものである。
  • 本映画化作品についていえば、シナリオ的に大失敗作と言っていいと思う。おそらく原作より脚色の問題である。
  • 例えば、このシナリオだとキャリーは昔から同級生と母親にいじめられ続けていたように見えるし、超能力も昔から持っていたように見えるが、これだとおそらく本来の作者の意図であろう「いじめのために超能力が開発されていった」ことがうまく表現されない。そしてそれがうまく表現されないと、肝心要の「陰湿ないじめが悲劇を生んだ」という因果関係がうまく観客に理解されない。
  • もっとも、見ようによってはむしろ「姦淫の罪に近づいたことが悲劇を生んだ」と解釈できなくもない構成になっている。作者がキリスト教が大嫌いなのか大好きなのかよくわからないこのような構成は『ミスト』とも似ている。

20点/100点満点

『ブレードランナー ファイナルカット』

 NHK BSPにて鑑賞。

  • ワオ、画面が綺麗。ぜんぜんノイズがない。
  • 2回目3回目だとそれなりに印象深くなってくるが1回見ただけでは訳が分からないプロットである。どうしてこうなるかというと、デッカードがレプリカントを殺しまくっているのが正しいように見えず、そうかといってレプリカントの側の意図(の理解の前提となる設定)がわかってくるのも遅いので、初回の鑑賞では特に話の前半は誰にも共感できない構造になっているから。やはりドラマには「観客がすべきと考えることを実践しようとしている人」の存在が必要である。
  • また、デッカードレプリカント説も頭に入っているかどうかで印象が変わってくる。

『タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密』

 WOWOWにて鑑賞。

  • ひょっとして、これは『天空の城ラピュタ』(1986)の元ネタか? Wikipediaによると原作(『なぞのユニコーン号』)の日本語版出版は1983年とのことで、時期的には臭う。
  • 例によってシナリオについて言うと、ファーストシーンなど部分部分で見ればよくできているところもあったが、全体の構成が今一つである。どうも宝探しがらみ臭いことはかなり初めの方で薄々わかってくるわけだが、宝探しをする自由は誰にもあるわけなので、ラッカムがそのために手をつくしているのを妨害すべきものとは思えない。個々の手荒な行為を償わせる必要はあるにしても、タンタンが宝探しの行為に割り込んでいく正当性があるかどうかは微妙である。そういうところが、物語の推進力の弱さにつながっている。まあ、ターゲット層である子供たちはそんなことをいちいち気にしてみていないだろうが。

55点/100点満点

『アルゴ』【ネタバレ】

 1979年の在イラン米大使館人質事件で、その直前密かにカナダ大使館に脱出していた6人の大使館員を、『アルゴ』という名の映画の撮影クルーだと偽ってCIA局員が出国させる実話ベースの話。

  • 大使館人質事件の発端を描く導入部の出来はよかったが、その後だんだん失速していった感じ。
  • 基本的にシリアスドラマのはずなのだけど、ところどころ中途半端にコメディーのようになってしまっているところがある。映画クルーのふりをしたという歴史的事実そのものがコメディチックなのでどうしてもこうなるのだろうが、シリアスドラマは立派だとほめたたえるのに対しコメディは愚かなことをしているとバカにするものであって、いかんせん両立はしにくい。どちらかに絞るべき。
  • 実話ベースだからということはあっただろうが、葛藤のかけ方が中途半端すぎる。この話の観客は、脱出に成功するという結末はどうせはじめからわかった上で見ているのだから、もっと困難な状況に追い込まないと人物たちの運命を心配できない。
  • 結末のつけ方だが、主人公を讃え報酬を与えて終わるのは構造主義的な定式通りではある。にもかかわらずどうも印象が薄いのは、ひとつには彼の犠牲が結果的には大きくなかったことがある。しかしそれ以上に問題だったのは、この物語によっていかなるテーマについての答えが例証されたのかがはっきりしなかったことである。そもそも物語の究極の目的は、科学的には決着のつかないような問題(テーマ)について、一つの答えの可能性を例示することである。この種のストーリーだとそのテーマは「西欧社会はイスラム社会より強いか?」のようなものであることが多いのだが、この話だとその答えを提示しているように見えない。結果的に成功したといってもかなりグダグダだったわけだし、大使館にはまだまだたくさん人質が残っていたのだから。
  • どうも全般的に脚本技術に不満が残る。

55点/100点満点

『127時間』

 WOWOWにて鑑賞。

  • ダニー・ボイルが持てる演出力を尽くして飽きさせないように努力しているのは伝わってきたけど……いかんせんこのシナリオじゃ話が持たないよ。

50点/100点満点

『家族』(1970)

 NHK BSPにて鑑賞。山田洋次原作・監督。

  • 脚本面では、基本的に性格描写のためのエピソードをつなげた串ダンゴ型の話で、性格描写は手段であって目的ではないと主張するアリストテレス型ドラマ観とは相容れないプロット。全体を貫く主人公の義務や因果関係(本筋)が希薄なので、全体として物語が何を主張しているかが明確でなく、また結末のつけ方も曖昧である。アリストテレス的ドラマ観に立ってこの話の本筋を解釈すると、父や母が家族を守るべき義務を負っていることを前提に、その目的に反する二人の死が「不幸な結果」(メタバシス)と把握され、それを齎した原因となる人間の行為たる過ち(ハマルティア)が追究されることになる。しかしこのプロットだと、それらはほとんど偶然の産物で、敢えて言うなら乳児や老人を長旅に連れ出したのがいけなかったということになるが、まさかそれがこの話の主張の眼目ではあるまい。しかも主人公の父母はその結果最終的に幸せになっているのである。
  • 一方、アリストテレス型ドラマ観でも、補助的な筋としての性格描写のためのエピソードでは、ある状況において人物がどのような行動を選択するかを描写することが目的となるので、その状況がどのような原因から生じたかは問題とされない。いわば状況はエピソードの前提条件(設定)として理由の説明抜きに天下り式に偶然に与えられる。串ダンゴ型ドラマは、初めから終わりまでこの種のエピソードを次々繰り出すだけで押し通すので、アリストテレス型ドラマ観にいう本筋が脆弱である。
  • この種の構造は喜劇に典型的に見られるもので、喜劇型ドラマと表現してもいいかもしれない。山田洋次が男はつらいよという喜劇を作り続けてきた脚本家であることは偶然の一致ではあるまい。
  • とはいえ、やはり魅力的な人物像が描かれているので、これはこれでありかなと思わされる。実際、典型的な日本のドラマはたいていこういう構造である。ただ、個人的には物語の価値の半分は結末にあると思っていて、やや無理矢理な結末になりがちなこの種の筋にはどうも消化不良を感じてしまうのである。
  • 現代の観客にとってのこの映画の最大の見所は高度成長期の日本の姿だろう。これは興味深く見た。全体的に見て経済的には発展途上だが、地方に今より活気があるようだったのが印象的であった。中標津駅なんて今はもう存在しないのだから。

70点/100点満点

『ゴールデンスランバー』

 WOWOWにて鑑賞。

  • まず初めに言っておきたいことは、ビートルズの楽曲の使用料が高いなら、そのお金が貯まってから製作すべきだということである。どうしてもその金が用意できないなら、その人にその作品を撮る資格はなかったということである。わざわざこういう作品を原作に選んでおきながらビートルズの音源は使えませんでしたというのは本来許されない話である。最近の邦画界はこのあたりの意識がルーズになっているようなので苦言を呈しておく。
  • この話を一言で言うと、かつての仲間たちとの絆に助けられる逃走劇なのだが、逃走劇としての部分はまずまずよくできているものの、絆を描く作品としてはどうも薄味である。そういう作品ならラストシーンがもっと印象深くなるはずなのだが、そうなってない。単に大学時代よくつるんでいたとか、付き合っていたとかというだけではあまり強い絆とは言えないからだろう。また、かつての仲間とは関係ない人々にも大いに助けられるのは一貫していない。特にあの通り魔は、少々都合がよすぎる存在である。
  • 回想シーンの使い方は上手いとは言えない。そもそも、なぜ回想という手法がしばしば退屈だと言われ避けられる傾向にあるかというと、そのとき観客が知りたいと思っていない情報を無理に与えようとするからである。回想を使いたいならここのところをうまく処理しなければならない。もっとも、過去に何があったかを現在の状態(の描写)で示すのが物語の本来のあり方で、そもそも回想は物語にとって必要不可欠な表現手段ではない。現実世界でわれわれが過去を理解するとき、「回想シーン」に頼ってはいないのである。
  • 最後、死体が上がったのはどういう経緯なのか? 本来なら撃たれた後の主人公の行動は観客に対して隠しておいて、ミステリアスに処理しなければならないのではないか。プロットが混乱しているように思われる。
  • 以上、苦言が多くなったものの、最近の邦画としては見れる方と言っていいだろう。

65点/100点満点

『ダークナイト ライジング』

 原題は『The Dark Knight Rises』だがなぜか邦題は上掲の通り。

  • 説明ゼリフが多すぎるし、結局何がいいたいのかもわからん。
  • ビギンズでの影の軍団云々の設定はその名の通りノーランの黒歴史として封印されたのかと思ったら、今作では全開バリバリじゃないですか。あーあ。原作がこうなってるのかなあ。
  • 最初と最後の30分だけでよかったんじゃないの、これ。
  • アン・ハサウェイは確かにセクシーだったが、いかんせん殺陣に迫力がない。

50点/100点満点