『最終目的地』(2009)

 WOWOWにて鑑賞。

  • アメリカの大学で文学を教える非常勤講師の青年が、自殺したある作家の伝記を書く許可を得るため、南米ウルグアイに住む遺族たちのもとへ交渉に行く話。
  • 良くも悪くも文芸的な映画で、よく言えば上品で知的、悪く言えば衒学趣味的な雰囲気漂う作品であるが、葛藤が弱いためにドラマチックでなく、どうも退屈である。3人の遺族のうち2人が伝記に反対しているというのが形の上では葛藤になっているのだが、反対者の態度が頑なすぎて、望みが見えないので、実質的に葛藤として成立していない。その後、ハード・ネゴシエイターの恋人が現地にやってくるところではじめて葛藤が生じてくるが、既に開巻から1時間以上経過していて遅すぎた。
  • しかしそれでも最後まで見てしまったのは、ときどき鋭いセリフが出てくるから。やはりドラマにとっていいセリフの力は絶大である。
  • 結末の締め方はまずまず整っていた。やはり、物語の結末の機能は語りの動機を説明することにあるという考えで大体問題ないようだ。

50点/100点満点

『言の葉の庭』

 新宿バルト9にて鑑賞。

  • 新海誠の最新作。興収好調との由で、バルト9も平日朝のわりに数十人くらいは入っていた。
  • 45分の中編。それに5分の短編のオマケ付きで特別料金1000円。45分の興行というものが許されるようになってくれば映画制作にだいぶ自由度が出てくると予想される。本来その程度が適切な話を無理矢理1時間40分に引き延ばしたような作品も見受けられる中で、良い傾向である。
  • 話の中身は新海誠の十八番、恋愛ドラマである。新宿御苑でたまたま出会った男子高校生と年上の女性とのひと夏の出会いと別れの話、といったところか。そういう意味では、バルト9での鑑賞がおすすめである。
  • シナリオ技術についてだが、アナグノーリシスまでの前半部分が少々キザで退屈なのがこの話の最大の問題である。どうしてこうなってしまうかというと、一つには説明すべき設定が薄いからである。これは新海作品全般にみられる弱点である。どこにでもいそうなふつうの男女を描いた現代劇となると、説明することが少ないのですぐ終わってしまう。そこを引き延ばそうとするからこうなるのである。靴づくりの話は、突っ込みが足りない。
  • また、説明の仕方の問題もある。少々淡々と説明しすぎているのである。もう少しひっかかりを作って観客をひきつけるような仕方を考えるべきだろう。
  • アナグノーリシス後は切なさを煽るおなじみの新海節でまあ悪くはない。ただ、なんというか……ベタな恋愛ドラマの展開すぎるような気はした。また、この前の『シュタインズゲート』の劇場版のときもそうだったが、話に大義がなくてどこまでも「2人にとっては重要」なだけの話なので、メロドラマの域を出ない感がある。新海誠は元祖セカイ系の旗手だったはずなのに。しかも、『シュタインズゲート』の方では一応義務と愛情の間での葛藤があったけれど、こちらはそこも弱いような……?
  • とはいうものの見終わった後の感触は悪くない。それは、「物語は、語り手がこの話を語る動機となった重要で意外な出来事で終わらなければならない」というルールをそこそこ守れているからである。

68点/100点満点

サーバ移転

 これまで自宅で10年物サーバにて運用してきた当サイトですが、今年も初夏を迎えてついにサーバの電源が異常を来したため、さくらクラウド(石狩DC)での運用に切り替えました。まだ問題点があるかもしれませんので、お気づきの節はぜひお知らせください。
 今までの回線は上りの遅いADSLでしたし(1Mbps弱)、サーバも10年分の時をまたいだことになりますので、予想していたことではありますが、最低グレードのプランでも高速に感じられ快適です。特にブログの反応は目に見えて早くなりました。ディスクもSSDですがこれは今までと同じです。
 昔のレンタルサーバと違って、今の仮想サーバはサーバの再起動やコンソールでの操作もすべてブラウザでできて便利です。申し込んで即日使えますし。さくらのクラウドは昨年大規模障害続きで話題になっていましたが、今は特に問題なく使えるようです。

 現時点で気付いたさくらクラウドの問題点は次の通りです。

  1. マニュアルが大変貧弱。ただ画面と画面項目を並べただけ。独自用語を定義せずに断りなく使っている。
  2. 東京からだと国内のわりにホップ数が多め。そのことと、物理的に北海道にあることが関係しているのかも知れないが、pingしたときのRTTが普通の国内サイトの倍くらい(30~40ms)かかる。
  3. 仮想NICを停止して再開すると、IPアドレスが変わってしまう。普段はしない操作だが、構成変更が必要になったときは問題になるかも。
  4. セカンダリネームサーバのサービスを依頼すると月1050円もかかる。なぜこんなに高い?
  5. IPv6未対応。今すぐ必要というわけじゃないけど、IPv4アドレスが既に枯渇してるのに、ちょっと意識低いかな。

追記: 4つ目の問題が致命傷で解約することにしました。次はどれにするかな……

『月世界旅行』[カラー版](1905公開・2011復元)

 WOWOWにて鑑賞。

  • 映画のテキストには必ず出てくるが実際に見たことのある人は少ないと思われる『月世界旅行』。その彩色版のデジタル復元版。劇伴は現代の曲を後付けしてある。
  • 何しろ世界初のSF劇映画であるから、中身は実に素朴なもの。尺もわずか14分。映像にはカット割りというものがなくシーンをマスターショットでただ撮っているだけ。背景ははっきり書割。全体的に舞台演劇に近い。現代の観客としては不満を感じるわけだが、それは現代の様々な撮影技術が考え出された動機になっているはずで、想像するといろいろと興味深い。
  • とはいえ後付けされた音楽の出来がいいこともあって案外味わい深く、思ったより見れる出来。初歩的ながら特撮もある。映画って案外こんなもんでいいのかも、と考えさせられる。あとやはり劇伴音楽の重要性。
  • ストーリー面で衝撃的だったのは、月から地球に帰る方法。月から下に落ちると地球に着水するという発想はなかった。

劇場版『STEINS;GATE 負荷領域のデジャヴ』

 見るつもりではなかったけれど、近所のシネコンに回って来たのでつい鑑賞。

  • ゲーム版『STEINS;GATE』(以下正編という。レビューはこちら)のトゥルーエンド後、すべてが元に戻り牧瀬が救われた歴史(シュタインズゲート世界線)の世界が舞台。……と思うのだけど、牧瀬はじめラボメンたちにある程度記憶があったりするので、たぶん正編後に出た続編ゲームの中身なども織り込み済みなのだと思う。それらはプレイしていない。
  • 概して、まあよくあの話からなんとか続編を作ったものだなと思う。そういう意味で努力賞的な出来である。
  • あらすじを一言でいうと「岡部倫太郎の消失」。数々の世界線を旅してきたことで異常を来した岡部は、ある日シュタインズゲート世界線から消失してしまう。その後の世界では岡部はもともといなかったことになっており、その世界線上の人々の記憶から岡部の存在は消去されているのであった。だが唯一、わずかに岡部の記憶を残していた牧瀬は、岡部を救うべく禁断のタイムトラベルへと踏み出すのであった。
  • 時かけの次はハルヒかい。と思わないではないが、まあいいか。今回は角川も製作に入ってるしね。
  • そんなわけで今回の主人公は牧瀬なのだが、彼女は今回明らかに倫理的義務よりも岡部への想いを優先した決断をしている。このため、観客の立場からは、今回の主人公を「立派だ」と評価しにくくなっている(といって非難に値するというわけでもないが)。その意味で、今回の話は悲劇というよりメロドラマ的である。なにぶんギャルゲーという生い立ちゆえ、正編にもメロドラマ的な要素は多分に含まれていたが、主人公岡部はラボメンへの想いだけで行動していたわけではなかった。第三次世界大戦とか、ディストピア的未来を回避するという大義があった。作る側からすれば付け足しの設定のようなものではあったろうが、観客の観点からは、これがあるとないとでは主人公への評価が大違いである。正編の岡部は確かに立派だった。今回の牧瀬は、そういう要素が弱い。
    • そう考えると、一頃はやった「セカイ系」に対する批判はどうも失当であるように思われる。伝統的な悲劇を作ろうとすれば公益に関わるなんらかの大義はどうしても必要になるように思われる。まあ、世界全体の存亡をかける必要まであるのかという点は検討されなければならないが……
  • 細かいシナリオ技術についていうと、やはり導入部がどうにも水っぽかった(話の密度が薄かった、というかはっきりいうと退屈だった)。話の初めは導入部だから予備知識の導入をしなければならない、という固定観念は危険である。
  • それともうひとつ、これは正編からの問題なのだが、岡部が牧瀬とまゆしぃの二股をかけたような状態になっているままなのがどうもひっかかる。ギャルゲーの枠にとどまっているうちは「それは言わないお約束」で済んだが、この後もメディア展開していくつもりなら、どっかで決着をつけないとまずい。というより、正編の経緯からしてどう見てもまゆしぃを選ぶ以外の選択があり得るとは思えず、牧瀬をメインヒロイン扱いするのはまずいのではないか。

45点/100点満点

The C++ Programming Language (4th Edition)


 予約注文していたこの本、10日に発売だったのですが、アメリカから1週間弱かかってやっと届きました。国内ではあまり注目されてませんが、C++11に対応した待望の改訂4版です。第3版はC++98ベースでしたから、ドラスティックに機能が追加されています。Stroustrup氏いわく「C++ feels like a new language.」(Prefaceより)。
 中は上質紙に2色刷りで、旧版の邦訳よりリッチな感じ。ただ価格もそれなりです。しかもこのところの円安でますます値上がりしています。Amazon.co.jpでの価格ははじめ7700円弱だったのが8001円になり、8051円になりました。
 しかもAmazonだと発売が10日遅れの20日ですが、とはいえ、それでもいまから注文するならAmazon.co.jpが一番早いでしょう。
 邦訳はいつになるでしょうか、まあ結構早いような気もしますが、C++14に間に合うかどうかは微妙なところです。

Firefox 20でどうしても消えない履歴がある

現象

Firefox 20にて、[ツール]-[最近の履歴を消去]などをしても、履歴表示で[表示回数順で並べる][最後に表示した日時順で並べる]を選択したときだけどうしても消えずに残っている履歴がある。

解決方法

SQLite managerにて、places.sqliteを選択し、[SQL実行]タブの[SQLを入力]に
update moz_places set last_visit_date = null where last_visit_date is not null
を入力して[SQLを実行]。

補足

このドキュメントは無保証です。当方ではうまくいきましたが、これで損害を被ることがあっても責めは負いかねます。

last_visit_dateはbugzilla #488966を見る限りではキャッシュ的に使われているカラムのようだが、何かの拍子に消えないで残ってしまうのだろうか。

『少年と自転車』(2011)

 WOWOWにて鑑賞。

  • 父親に見捨てられた少年シリルと、ひょんなことから里親となった女性サマンサとの交流を描いたヒューマンドラマ。
  • とにかく良くも悪くもヒューマンドラマらしいヒューマンドラマである。
  • ドラマの主人公にはある意味での立派さが必要である。そして確かにサマンサは立派である。しかし、サマンサがいかなる倫理的規範・信念に基づいてあれほどまでの献身ぶりを発揮したか、そしていかにその倫理的規範・信念が正しいかを示さないと、立派さがあまりに人間離れして嘘くさく見え、観客としては逆にその実感が持てなくなる。
  • 父親捜しの葛藤が比較的早い段階で解決した後、ドラマを駆動する力が弱まった感がある。
  • 結末のつけ方について。脚本家はシリルの犯した犯罪の方を気にしてその贖罪を描いて終わりにしているが、これはおかしい。シリルが贖罪すべきはサマンサに対してである。小山薫堂も番組の後枠で結末の違和感を指摘していたが、その原因はこのせい。
  • ただ、贖罪のさせ方自体は上手いアイデアだなと思った。

60点/100点満点